生成AIの普及に伴い、米大学でAIを使った不正行為が深刻さを増している。Stanfordは4月、こうした事態を受けて対面での筆記試験を再導入した。Princetonでも試験監督を巡る長年の規定が見直されるなど、大学側は評価制度の再設計を迫られている。
GIGAZINEなどが19日付で報じた内容によると、6月に卒業を控えるテオ・ベイカー氏は、自身を「ChatGPTとともに大学生活を送った最初の世代の一人」と位置付けた。
ChatGPTが公開されたのは、ベイカー氏が2022年秋にStanfordへ入学してから約2カ月後だった。公開から1週間足らずで利用者数は100万人を超え、その後は学生の間にも急速に広がったという。
ベイカー氏は、ChatGPTの登場によって不正行為が以前よりはるかに容易になり、見返りも得やすくなったと指摘する。
キャンパス内では、AIを使ったさまざまな不正の手口が共有されていたという。ベイカー氏は、AIを使って寮の支援金を不正に受け取る学生や、Uber Eatsのクレジットを得るために新型コロナ感染を装う学生、ブラウザでChatGPTを開いたまま「ChatGPTは使わない」とする誓約書に署名する学生がいたと語った。
学業面でも、AIを使ったカンニングは大きな問題になっている。Stanfordでコンピュータサイエンスを専攻する学生849人を対象にした学内調査では、回答者の49%が「試験に落ちるくらいなら不正をする」と答えた。スマートグラスを使ったカンニング需要が増えているとの指摘も出ている。
AIの活用が課題支援の範囲にとどまらず、試験や評価の仕組みそのものを揺るがしている実態が浮き彫りになった形だ。
研究面でも問題は広がっている。Stanfordの学生が、MetaのAIモデル「Llama 3-V」を活用した成果だとする論文を発表したものの、実際には中国OpenBMBのオープンソース・マルチモーダルAIモデル「MiniCPM-Llama3-V2.5」を盗用していた事例があったという。
こうした事例は、AI活用が学習支援を超え、研究不正にまで波及しているとの見方につながっている。
大学側も対応を急いでいる。StanfordはAIを用いた不正の拡大を受け、1世紀以上前に廃止していた対面での筆記試験を復活させた。
同様の動きは他大学にも広がっている。Princetonは、不正行為の拡大を受け、試験中に教授が教室を離れてもよいとしていた133年前の規定を廃止した。AI対応は個々の授業運営にとどまらず、大学制度全体の課題になりつつある。
ベイカー氏は、その背景にゆがんだインセンティブ構造があるとみる。コンピュータサイエンスの学位を取得しても初級職が保証されるわけではなく、ジュニア開発者向けの雇用市場が狭まりつつあるとの感覚を抱えたまま、学生たちは学業を続けているという。
学業上の誠実さより、短期間で成果を示したり、外形的な成功を手にしたりすることのほうが大きな報酬につながる環境が、学生の選択に影響しているとの問題意識も示された。
AI業界の資金の流れも、そうした認識を強める一因として挙げられている。他社モデルを再包装した、いわゆるラッパー型スタートアップにも巨額の投資が集まっているためだ。
一例として、Perplexity AIはOpenAIのモデルを基盤とするサービスとして出発し、企業価値は2024年4月の10億ドルから、2025年9月には200億ドルへと急拡大したとされる。
ベイカー氏によれば、周囲では同級生が「税金対策のためにラスベガスに家を買った」と話すこともあったという。こうした環境では、「普通に宿題をこなすことが愚かに思えてしまう」との指摘もあった。
若年層全体でもAI依存は強まっている。ピュー・リサーチの調査では、米国の13~17歳の過半数が学業や情報収集の過程でAIを利用していると答えた。世帯所得が低いほど、AIへの依存傾向が強いという。
大学で顕在化したAI不正の問題は、一部の名門大学に限った逸脱ではない。教育全体の評価手法や報酬構造そのものが揺らいでいることを示す事例になっている。