FTX Europeの責任者を務めたパトリック・グルン氏が、利用者が損失を負担しない仕組みをうたうAI取引サービス「UpsideOnly」を立ち上げた。もっとも、サービスの設計に加え、FTX時代のデータ活用の可能性も取り沙汰されており、市場では信頼性や持続性を巡って見方が分かれている。
ブロックチェーンメディアのBeInCryptoによると、グルン氏は5月19日(現地時間)、「UpsideOnly」を開始した。
UpsideOnlyでは、利用者が原油、金、株式、暗号資産などを対象とする売買アイデアを投稿し、AIが収益性の高いシグナルを選別する。実際の取引は、上場企業のPerpetuals.comが自社資金で執行する。
最大の特徴は、利用者が投資資金を直接拠出しない点だ。AIが選んだ取引で利益が出た場合、シグナルを提案した利用者が利益の半分を受け取る。一方で損失が発生しても、利用者はそれを負担しない。グルン氏は「ユーザーは負けない構造」だと訴えている。
ただ、市場の関心はサービスの内容以上に、グルン氏の経歴にも向いている。グルン氏は2022年に経営破綻したFTXで欧州事業を統括していた人物だ。FTX破綻では数十億ドル規模の顧客被害が発生したが、同氏はこれまで、親会社で行われていた不正は把握していなかったと主張してきた。
AIモデルを巡っても論点がある。UpsideOnlyの中核エンジン「VeShield AI」は110億件超の過去取引データを学習しており、その相当部分はFTX Europeの顧客基盤に由来するとされる。FTX崩壊前に蓄積された取引データが、現在の学習に使われている可能性があるということだ。
業界内では、「損失のない投資」を掲げるプラットフォームが、過去に大規模損失を生んだ取引所のデータに依拠しているのは皮肉だ、との指摘も出ている。
グルン氏は最近公表した文章で、既存の金融市場の構造を批判した。「人々は市場と相互作用しているのではなく、市場に反応している」「問題は個人の能力ではなく、システムの構造にある」と主張。Perpetuals.comについては、市場を設計、実験、改善が可能なシステムとして捉えており、多くの場合に「リスク」と呼ばれるものは、脆弱な金融インフラの結果だと説明した。
これに対し、批判的な見方もある。リスクが消えたのではなく、利用者から企業側に移っただけだという指摘だ。損失が出たポジションは、Perpetuals.comのバランスシートに反映されるためである。
同社の財務基盤も懸念材料とされる。Perpetuals.comの時価総額は約2200万ドルとされ、直近まで連続赤字が続いている。市場では、同社が長期にわたって損失を吸収し続けられるのかを疑問視する声が出ている。
グルン氏はPerpetuals.comを、規制の枠組みに沿った代替金融プラットフォームと位置付けており、UpsideOnlyはそれを一般向けサービスとして具体化した事例だと説明する。ただ、業界では、サービス拡大の成否はAIの性能以上に、FTXと結び付いた過去の経歴が信頼面にどの程度影響するかに左右されるとの見方がある。
UpsideOnlyは現在、事前登録を受け付けている。本格展開は2026年後半の予定。今後は実際の利用者流入の規模に加え、企業側が損失を引き受けるこのモデルを継続的に運営できるかが焦点になりそうだ。