半導体の高速化と発熱抑制の両立が期待される今回の研究成果

東京大学の研究チームは、発熱をほとんど増やさずに情報処理速度を従来比で最大1000倍に高められる可能性がある次世代半導体素子を開発した。半導体の高速化と発熱抑制を両立し得る技術として、低消費電力コンピューティング分野で注目を集めそうだ。

米ITメディアのTechRadarが5月18日(現地時間)に報じた。研究チームが開発したのは、電流ではなく電子の磁性的な性質を使ってデータを記録する「非揮発性量子スイッチング素子」だ。

今回の成果のポイントは、高速動作と発熱抑制を同時に実現できる可能性を示した点にある。実験では1ビットの情報を約40ピコ秒で処理した。従来の半導体が約1ナノ秒単位で動作するのに比べ、大幅な高速化となる。

発熱の抑制も特徴だ。一般に半導体は高速化するほど発熱が増え、性能向上の制約になりやすい。これに対し新素子は、連続的に電流を流すのではなく、磁化方向の変化によって情報を記録するため、熱の発生を大きく減らせるという。

素子はタンタルとマンガニンを組み合わせた構造を採用した。電気信号がタンタル層を通過すると、マンガニン内部にごく小さな磁化方向の変化が記録され、その向き自体がデータビットとして機能する。研究チームは、この構造によって超高速処理と低消費電力を両立できたとしている。

耐久性でも高い性能を示した。素子は1000億回を超える繰り返し動作後も安定して作動したという。TechRadarは、既存の高速半導体では同様の条件下で約1000万回を超えると過熱が問題になり得ると伝えており、長時間動作の安定性でも有意な結果だとしている。

微細化余地の大きさも強みとされる。研究チームは、量子スイッチング素子は小型化が進むほど性能向上の効果が大きくなる可能性があるとみている。実際にチップ化できれば、消費電力を現在の半導体の100分の1程度まで引き下げられる可能性もあるという。

応用例としては、大規模データセンターの消費電力を現在の約8万世帯分から将来的に約800世帯分まで減らせる可能性があるとした。高性能ノートPCでも、電力効率の改善により1回の充電で数カ月使える水準が視野に入るという。例として、毎日の充電が必要なMacBook Proが1回の充電で3カ月稼働する可能性も挙げた。

もっとも、商用化にはなお時間を要する見通しだ。今回の成果は実験室レベルの原理実証段階にあり、量産可能な半導体プロセスに落とし込むには別の課題が残ると研究チームは説明した。TechRadarも、物理的な可能性と製造可能性は別問題だとし、量産工程の確立に加え、資金やサプライチェーンの整備が必要だと指摘している。

処理性能の潜在力は大きい。TechRadarは、現在1時間かかるデータのダウンロードが理論上は1秒規模の処理になる可能性にも言及した。ただ、この数値はあくまで理論的な可能性に近く、実用化には数年単位の工学的な開発が必要だとしている。

研究チームは2030年前後の試作チップ開発を目標に掲げる。実際の商用製品の投入はその後になる公算が大きい。すぐに市場へ投入できる段階ではないが、低消費電力・超高速半導体を巡る開発競争で有力な候補の一つといえそうだ。

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