EV普及は車両価格や電池コストだけでは左右されない。写真=Shutterstock

欧州で自動車保険料と修理・整備費の上昇が続き、電気自動車(EV)の経済性に逆風が強まっている。車両価格や電池価格の低下で市場拡大は見込まれる一方、保険料の上昇、充電インフラの不足、電力網への負荷が普及の足かせになりつつある。

ブロックチェーンメディアのCryptopolitanによると、欧州では新型コロナウイルス禍以降、家計の車関連支出が大きく膨らんだ。自動車保険料は2021年以降で約37%上昇し、車両の電装化やバッテリー関連部品の価格上昇を背景に、修理・整備費も20〜30%増えた。

フランスとドイツでは、自動車関連支出が家計消費の7〜8%を占める。低所得層では負担比率が最大11%に達するという。

こうした環境の変化を受け、EVへの乗り換えが想定ほど家計負担の軽減につながらない可能性も指摘されている。BNPパリバのアジア太平洋産業リサーチ責任者、ジェームズ・カン氏は、一部市場ではEVの燃料コスト削減効果が、保険料や維持管理費の増加で相当部分打ち消される可能性があると分析した。

消費者の立場からみれば、EVに切り替えた後に実感できる節約効果が、期待を下回る恐れがあるということだ。

充電インフラの不足も解消していない。欧州の充電設備数は2020年以降、年率約20%で増加し、2026年初め時点で約110万基に達した。ただ、欧州連合(EU)が掲げる2030年の目標である350万基にはなお大きな隔たりがある。

目標達成には年平均27%程度の増加が必要だが、現行のペースでは2030年時点で約80万基不足する可能性がある。

とりわけ、超急速充電に対応した直流充電器は全体の約16%にとどまる。充電インフラはオランダ、フランス、ドイツ、ベルギーなど一部の国に偏在している。

農村部や郊外では依然として充電環境が不十分で、EV普及の制約要因となっている。

電力網への負荷も無視できない。国際エネルギー機関(IEA)は、EU域内のデータセンターの電力使用量が2024年の70TWhから2030年には115TWhへ増え、約65%伸びると予測した。

AI向けデータセンターとEV充電の需要が同時に拡大すれば、限られた電力インフラへの負荷が一段と高まる可能性がある。

一方、原油高はEV需要の押し上げ要因となっている。ブレント原油価格の上昇を受け、フランス、ドイツ、オランダではガソリン価格が1リットル当たり2ユーロを超えた。ロシア・ウクライナ戦争の初期以降で最も高い水準という。

今後、カーボンニュートラル規制が強化されれば、原油価格が1バレル当たり100ドルを超える可能性も指摘されている。

それでもEV市場は拡大基調を維持している。市場規模は2026年に約5750億ドル(約8兆6250億円)、2036年には2兆3000億ドル(約345兆円)に拡大するとの見通しだ。

背景にあるのは電池価格の下落だ。リチウムイオン電池の価格は2010年に1kWh当たり1474ドル(約22万1100円)だったが、2024年には108ドル(約1万6200円)まで低下した。業界では今後、60ドル(約9000円)を下回る可能性もあるとみられている。

この水準まで下がれば、補助金がなくてもEVの価格競争力が高まる可能性がある。

双方向充電市場の拡大も進む。双方向EV充電器の市場規模は2025年の14億ドルから、2032年には62億ドルに拡大する見通しだ。

車両から電力網に電力を戻して需給調整に活用できる仕組みで、ドライバーの選択肢を広げる効果も期待される。

EV市場の成長は、電池価格の下落だけでは決まらない。保険料や整備費の負担をどう抑えるか、充電設備の整備をどこまで加速できるか、さらにEVを単なる電力消費者ではなく分散型電力資源として活用できるかが、今後の普及ペースを左右しそうだ。

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