元恋人を再現したAIチャットボットを巡り、個人データ利用の是非や依存リスクが議論となっている。写真=Shutterstock

別れた相手をAIチャットボットで再現し、対話する使い方が広がりつつある。過去のチャット履歴や写真、SNS投稿を基に元恋人の口調や会話の癖を模したボットを作成するもので、本人の同意を得ない個人データ利用や、利用者の情緒的依存を巡る懸念が高まっている。

米ITメディアのTechRadarが16日(現地時間)に報じたところによると、一部の利用者はAIツールに過去のメッセージ記録や写真、SNS投稿などを入力し、元恋人をデジタル上で再現したチャットボットを作っているという。

香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、こうした動きの発端の1つとして、業務向けに設計されたオープンソースAIツール「Colleague.skill」を挙げた。同ツールは本来、同僚の業務知識やコミュニケーションの特徴を保存し、業務の引き継ぎや代替を支援する目的で開発されたとされる。

ただ、利用者の一部が用途を私的な関係に広げ、過去の恋人を模したチャットボットとの対話に使い始めたという。

論点となっているのは、相手の同意なしに過去の会話や写真をAIの学習材料として使ってよいのかという点と、こうした機能が心理面で副作用を生まないかという点だ。

実際の受け止め方は一様ではない。紹介されたある利用者は、数千件に及ぶチャット記録をアップロードした結果、AIが再現した元恋人との対話を通じて「もう一度別れを経験したようだった」と語った。

その一方で、この体験が関係をより理性的に振り返るきっかけとなり、前に進む助けになったとも説明している。

もっとも、専門家はこうした体験を治療と同一視すべきではないと指摘する。英Freedom Counsellingの心理療法士、エイミー・サットンは、別れという喪失を受け止める過程の一形態として捉えるべきだと述べた。

サットンは「別れの痛みは一種の死別に近い。関係を失うと、人は死を経験したときのように悲嘆する。ただ、別れは相手が生きているにもかかわらず、もうつながることができない点で、より受け入れがたい」と話した。

さらに、こうしたチャットボットが人を引きつける背景には、別れの後に生じる感情の揺れがあると説明した。否認の段階では相手が完全には消えていないように感じさせ、怒りの段階では言えなかった言葉を吐き出す対象になり得るという。

また、交渉の段階では、AIとの関係が回復すれば現実も変わるかもしれないという期待を抱かせ、抑うつの段階では、つながりや慰めを得る手段のように作用する可能性があるとした。

一方でサットンは、より大きなリスクはその先にあると警鐘を鳴らす。「AIは悲嘆の過程で必要となる感情の一部を模倣できるかもしれないが、現実の人間関係の代わりにはならない。利用者を引き留めるよう設計されたAIは、人を悲しみの中にとどめ、状況を悪化させる恐れがある。気分や健康、自我感覚に長期的な悪影響を及ぼしかねない」と述べた。

今回の事例は、生成AIが個人の感情整理を助けるツールになり得る一方で、本人同意のない個人データ利用と情緒的依存という問題を同時に浮き彫りにした。元恋人の口調や記憶を再現したチャットボットが一時的な慰めを与える可能性はあるものの、現実の別れを受け入れる過程を遅らせたり、ゆがめたりする恐れもある。

AIによる複製技術が私的な関係の領域にまで入り込む中、データ利用における同意の在り方と、心理的な安全策をどう確保するかが新たな論点となっている。

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