米国の美容医療の現場で、生成AIが作成した画像をカウンセリングに持ち込む患者が増えている。形成外科や皮膚科では、そうした画像が手術後の理想像として受け止められるケースもあり、医師側は施術の限界や安全性を改めて説明する場面が増えている。
Business Insiderは今月16日(現地時間)、ChatGPTや各種AI画像生成ツール、フィルターアプリの普及により、美容医療の仕上がりに対する患者の期待が一段と高まり、診療現場で新たな課題になっていると報じた。
ニューヨークの皮膚科専門医、レイチェル・ウェストベイは今年初め、患者が持参したAI生成画像に驚いたという。顔全体とのバランスを欠いた大きな唇や、人形のように誇張された目が描かれていたためだ。
ウェストベイは「人魚姫のような見た目になりたいと言っているのと同じだ」と述べ、AI画像は個々の顔立ちや骨格、全体のバランスを適切に反映していないと指摘した。
医療関係者の間では、患者の期待と実際の手術結果とのギャップが広がっているとの見方が出ている。Beth Israel Deaconess Medical Centerが昨年公表した調査でも、写真補正AIを使った経験がある人ほど、整形手術の結果に対する期待値が有意に高い傾向が示された。
米国形成外科学会(AAPS)会長のスティーブン・ウィリアムズは、豊胸や体形の修正、鼻整形などのAI生成画像を持参する患者を実際に診ていると説明した。そのうえで、「重要なのは、いまも限界があると理解することだ。画像を作るほうが手術よりはるかに簡単だ」と語った。
画面上では自由に理想像を描けても、現実の人体は解剖学的な構造や生理学的な安全基準を超えることはできないというわけだ。
こうしたずれは、カウンセリングの場でより鮮明になる。フェイスリフトを予定していた60歳のデイナ・ジェンキンスは、ChatGPTに施術計画を入力して術後イメージを作成したが、毛穴の見えない肌や極端にシャープな顎のラインなど、実際の自分とはかけ離れた画像になったという。
ジェンキンスは病院で「実現は難しい」と説明を受け、むしろ安心したと話した。「あれは現実ではなかった」と振り返っている。
マンハッタンの形成外科医、サチン・シュリダラニも、70代の患者がAI画像を持参し、孫娘のように若く見える顔を求めた事例を紹介した。若い頃の顔をそのまま取り戻すことはできないと説明しても、患者は希望を変えなかったという。
医師らはカウンセリングで、画像にフィルター加工が施されている可能性や、呼吸機能に影響を及ぼしかねない鼻の形、身体構造上実現できないウエストラインなどを丁寧に説明している。ウィリアムズは「人体は粘土ではない」と強調し、手術では守るべき生理機能や臓器のシステムがあると訴えた。
AIが生み出す外見の基準は、従来の「フィルター文化」の延長線上にある。かつてはファッション誌の写真を持ち込む患者が多かったが、近年はSNSの加工画像やAI生成画像がそれに取って代わっている。
米国顔面形成再建外科学会(AAFPRS)が2019年に公表した調査では、顔面形成外科医の72%が「自撮りでより良く見えるための施術」を求める患者を経験したと答えた。いわゆる「スナップチャット・ディスモルフィア」の流れが、生成AIによってさらに強まっている格好だ。
もっとも、医療側がAIを一律に否定しているわけではない。ワシントン大学医学部の再建形成外科医、ジャスティン・サックスは、診療でAIツールをデジタル記録の補助に活用しており、将来的には医師主導の医療シミュレーションにも役立つ可能性があるとみている。
例えば乳がん患者の再建手術では、シリコンインプラントの容量や軟部組織の被覆状況を反映した結果をリアルタイムで示せれば、患者への説明や期待値調整の方法が変わる可能性があるという。
こうしたなか、医療関係者は技術論以前に、患者が手術に何を求めているのかを見極める必要があると指摘する。ウィリアムズは、患者にどのような結果を期待しているのかを必ず尋ねているとした。
新しい職場や新たな人間関係、社会的地位の変化そのものを手術の目的にしている場合は、注意すべき兆候になり得るとの見方だ。
AI生成画像はカウンセリングの出発点にはなり得るが、実際の医療判断はあくまで安全性と実現可能性を前提に行うべきだという指摘が強まっている。生成AIは参考材料を広げる一方で、医療現場には非現実的な期待をどう調整するかという新たな課題をもたらしている。