a16zのパートナー、シーマ・アンブル氏。写真=a16z公式サイト

有力な企業向けソフトウェア各社が、AIエージェントによる利用を前提にした「ヘッドレス」型プラットフォームの展開を加速している。UIを介さずにエージェントが基盤データへ直接アクセスできるようになることで、企業ソフトの競争優位の源泉も変わり始めている。

ヘッドレスソフトウェアは、ユーザー向けの画面を持たず、バックエンド機能をAPIなどで提供する形態を指す。SalesforceやServiceNowなどの大手も、AIエージェントを見据えて主力プラットフォームのヘッドレス化を進めており、ソフトウェア市場の力学にどのような変化をもたらすか関心が高まっている。

実際、Salesforceは「Headless360」を通じてAIエージェント時代のCRM像を打ち出し、ServiceNowも「Action Fabric」によって外部AIエージェントへのプラットフォーム開放を進めている。

こうした動きについて、米ベンチャー投資会社Andreessen Horowitz(a16z)のパートナー、シーマ・アンブル氏は、ヘッドレス化によって企業ソフトの競争環境そのものが変わるとの見方を示した。a16zのWebサイトに掲載した文章では、「次世代の記録システムは、人間の作業を保存する保管庫ではなく、文脈を捉え、業務を起動し、データを記録するエージェンティックな形へと移行しつつある」と指摘している。

アンブル氏はSalesforceの発表を例に、ヘッドレス化が企業向けソフトの価値の置き場をどう変えるかを整理した。APIを開放し、ヘッドレス製品を投入するSalesforceの動きは、AIエージェント時代の価値がUIではなくデータレイヤーにあるとの判断を映している、というのが同氏の見立てだ。

その一方で、この流れは「UIを取り払った後にSalesforceに何が残るのか」「それは誰でも構築できるデータベースとAPIの組み合わせと何が違うのか」という根本的な問いも突き付ける。

過去20年間、Salesforceが提供してきた中核価値は、ダッシュボードやパイプライン表示、予測ツールといったUIを通じた体験にあった。UIはユーザーを製品に定着させ、継続的なデータ入力を促す役割も果たしてきた。アンブル氏によれば、多くの営業リーダーはUIの良し悪し以上に「使い慣れている」ことを理由に、転職先でもSalesforceの導入を後押ししてきたという。

だが、AIエージェントはこの前提を揺るがす。エージェントはUIを介さず、基盤データを直接読み書きできるためだ。その結果、従来の競争優位のうち何が残り、何が薄れるのかが改めて問われている。

同氏は、従来の記録システムが顧客を引き留めてきた要素のうち、人間の習慣や嗜好に依存した優位は、エージェント時代に弱まるとみる。「AIエージェント環境では、利用頻度や読み書きの慣れといった“muscle memory”は参入障壁になりにくい」と述べた。

一方で、ヘッドレス時代にも重要性を保つ要素はある。例えば、明文化されていない業務手順だ。アンブル氏は「エージェントが正しく機能するには、ワークフローのルールだけでなく、組織内に長年蓄積された暗黙の規則や慣行が必要になる」としている。

接続性も重要な論点だ。CRMエージェントは、営業、請求、カスタマーサクセスといった複数領域のデータを横断的に扱う必要がある。加えて、コンプライアンス関連データの重要性も増す見通しだ。エージェント同士が連携する環境では、記録システムが本人確認や権限管理のレイヤーを担うため、構造的に置き換えにくい存在になり得ると同氏は指摘する。

さらに今後は、従来以上に重要になる要素もある。まず焦点となるのが、既存の記録システムを競合がどこまで容易に再現できるかだ。同氏は「再現が難しいほど競争優位は強い。AIは記録システムの80%を作り直すコストを下げているが、残る20%の例外処理や承認、コンプライアンス要件、例外ケース向けワークフローこそが、実用的なツールと真の代替製品を分ける」と述べている。

独自データの有無も重要になる。「競合が容易に複製したり持ち出したりできない防御力の高いデータとは、持ち込みデータではなく、製品そのものが生み出す固有データだ」と同氏は説明する。具体例として、観測された行動、応答率、タイミングのパターン、プロセスの結果、エージェントの性能記録などを挙げ、「データは単なる記録ではなく、エージェントが判断し行動するための文脈になった」とした。

同氏はまた、実行レイヤーを担えるかどうかも競争力を左右するとみる。「これまでは記録を保存するだけで十分だった。今後は、行動を起こし、その結果を記録し、さらに結果を踏まえて次の意思決定を改善する一連のプロセスを自律的に回せる製品が優位に立つ」と述べた。

現実の業務執行まで担うかどうかも、重みを増す要素だ。「データを保存したり推薦したりするだけでなく、実際に人を派遣し、物を配送し、サービス提供を完了させるソフトウェアは、競合が追随しにくい。画面内で完結する純粋なSaaSとは異なり、現実世界とつながっているためだ」と説明している。

ネットワーク効果も無視できない。アンブル氏は「これまで記録システムではネットワーク効果は大きくなかったが、エージェント時代のシステムが、買い手と売り手、雇用主と従業員、企業と監査人といった多者間ワークフローに組み込まれれば、その重要性は大きく高まる」との見方を示した。

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