中国の自動車業界で、日本の軽自動車を参考にした低価格小型EVの新規格を設ける案が浮上している。安全基準を満たす低価格車を制度の枠内に取り込み、低迷する内需のてこ入れと新興国市場への輸出拡大を同時に狙う動きだ。
EV専門メディアElectrekが14日(現地時間)に報じたところによると、中国乗用車協会(CPCA)の事務総長、ツイ・ドンスー氏はWeChatへの投稿で、新たな低価格EVカテゴリーの創設を提案した。低価格帯の需要減が、自動車市場の回復を鈍らせる要因になっていると指摘している。
中国ではEV販売の増加が続く一方、自動車消費全体の回復は力強さを欠く。CPCAによると、4月のEV小売販売は約86万台で前月から小幅に増えたものの、前年同月の90万5000台には届かなかった。
一方、農村部や高齢層を中心に、超低価格の小型電動車への需要はなお根強い。これまでこうした需要を担ってきた低速EVの多くは、十分な安全規制の対象外だった。一部車両には、エアバッグや車体補強といった基本的な安全装備すら備わっていなかったという。
中国工業情報化部(MIIT)によると、2012年から2016年にかけて低速EV関連の交通事故は約83万件発生し、死者は約1万8000人に上った。中国政府はこうした車両を2024年から禁止した。
ツイ氏は、この空白を埋めるには「規制の空白を埋める中間カテゴリー」が必要だと主張する。安全基準を満たしながら価格を抑えた小型EVを独立した市場として制度化し、県級市や高齢層の需要を受け止めるべきだという。
具体策としては、車体サイズの上限やモーター出力、最低航続距離などの基準を明文化する案を示した。あわせて、高齢者や運転初心者を念頭に、簡素化したC7専用免許制度の導入も必要だとしている。
海外の参考例として挙げたのが、日本と欧州連合(EU)だ。日本の軽自動車は、全長3.4m以下、排気量660cc以下の規格を持つ小型車で、今年上半期の乗用車販売のおよそ3分の1を占めた。年間販売規模は約167万台とされる。
ツイ氏は、日本のように独立した規格に加え、税制や補助金の枠組みを整えれば、中国でも低価格小型EVの需要を制度圏に取り込めるとの見方を示した。
EUの小型EV支援策にも触れた。欧州委員会(EC)は、全長4.2m以下のEVに対し、排出クレジット面で優遇措置を設け、小型EVの生産を後押ししているという。
中国の自動車メーカー各社も、市場性の見極めを進めている。BYDは昨年、日本市場向けの電動軽自動車「Rako」を公開した。全長3395mm、バッテリー容量20kWh、航続距離は約180kmで、急速充電にも対応する。今年夏の日本投入を予定している。
中国国内でも超低価格EVの販売事例は続いている。Bestune Ponyは5000ドル未満で投入され、CheryのQQ3は約5万7000件の注文を確保した。トヨタの合弁EV「bZ3C」も、低価格戦略を前面に打ち出して販売の勢いを維持している。
ツイ氏は、需要そのものは十分に確認されているとしたうえで、課題はそれを安全に受け止める制度的な枠組みが不足している点にあると強調した。
業界では、この構想が単なる内需対策にとどまらず、輸出戦略とも結び付く可能性があるとの見方が出ている。東南アジアやインドなど、低価格小型車の需要が大きい市場で、共通の安全基準を満たす低価格小型EVの規格が定着すれば、中国メーカーの海外展開を後押しする可能性があるためだ。
実際、中国のEV輸出は急増している。報道では、中国は4月だけでEVを40万台以上輸出し、その伸びのペースは前年を大きく上回った。低価格の電動小型車を独立した産業カテゴリーとして制度化できれば、内需回復と海外市場開拓を同時に狙う余地が広がりそうだ。