メモリー価格の急騰はAppleの原価を押し上げる要因になり得る一方で、長期的には競合との差を広げる材料にもなりそうだ。Apple専門の分析企業Asymcoのアナリスト、ホーレス・デディウ氏は、足元の「メモリー・パニック」がAppleにとって一方的な逆風ではないとの見方を示した。
オンラインメディアGigazineが14日(現地時間)に報じた。
デディウ氏が注目するのは、Appleが単なる部品購入者ではない点だ。iPhone、Mac、iPad、Apple Watch、Vision Proに搭載するメモリーなどを、数億台規模で長期にわたり調達している。
そのため、メモリーメーカーはApple向けの供給を前提に生産計画を立てやすく、設備投資に必要な資金も確保しやすいという。
今回の価格急騰は、主にスポット調達分で起きているとデディウ氏はみる。既存契約に基づく基本供給分よりも、短期間で追加確保しようとするメモリーの価格が急速に上がっているという説明だ。
Appleは市場価格に合わせて毎月調達量を調整するのではなく、長期契約を軸に必要量を確保する構造に近い。これが、短期的な価格変動の影響を受けにくい理由だとされる。
こうした差は、供給不足の局面でさらに大きくなる。メモリーや半導体は、発注の翌月に大量供給できる製品ではない。生産能力、原材料、製造装置、資金、人員などを数年前から手当てしておく必要があり、メーカー側も長期の大量購入を約束する顧客には価格交渉で強硬姿勢を取りにくい。
もっとも、この状況が長引けば、長期契約価格にも影響が及ぶ可能性はある。デディウ氏は、メモリーメーカーは短期の高値販売で得られる利益と、Appleのような大口顧客との長期取引の価値を合わせて判断せざるを得ないと指摘した。
半導体市場は好況と不況を繰り返すため、足元の価格上昇がこのまま続くと断定するのは難しいとの見方も示した。
一方で、中長期ではAppleが交渉面で主導権を握る可能性が高い。短期のスポット市場だけを見れば供給側が優位に見えるが、数年単位ではAppleの購買力と継続的な発注能力がより大きな武器になるという。
供給側にとっても、当面は高値で販売しつつ、市況沈静化後もAppleとの長期取引を維持するというバランスを取る必要がある。
しわ寄せを受けやすいのは競合だ。Appleほどの購買規模や資金力を持たないスマートフォンメーカーは、必要なメモリーを適時に確保できないか、価格上昇分をそのまま受け入れざるを得ない可能性が高い。
その場合、製品原価の上昇がそのまま採算悪化につながる。Appleが先に必要量を押さえるほど、競合は残る供給分を巡って、より高い価格での調達を迫られるとの見方だ。
デディウ氏は、Appleの売上総利益率(GPM)が49%から45%に低下しても、なお許容範囲内に収まるとみている。焦点は、競合各社が同じ環境に耐えられるかどうかだという。
こうした調達力の差は、今後の製品戦略にも波及する可能性がある。デディウ氏は、Appleが将来的に499ドル前後の低価格iPhoneで攻勢に出る可能性にも言及した。
現在の高性能iPhoneに近い体験をその価格帯で提供できれば、800ドル級の端末でも十分な利益を確保しにくい競合にとっては大きな圧力になるという。
メモリー価格の急騰はAppleにとって原価面の逆風ではあるものの、長期契約、資金力、サプライチェーン運営力を備える企業に有利な環境を生む可能性がある。部品高が長引くほど、苦境に立たされるのはAppleではなく、同規模の調達力を持たない競合メーカーになりそうだ。