欧州連合(EU)が自動車のCO2排出規制を緩和した場合、2030年のEU域内のEV生産は現在見込まれている水準の半分近くまで落ち込み、Northvolt級の電池工場34カ所分に相当する投資機会が失われる可能性がある。雇用や電池材料、エネルギー輸入にも影響が広がる見通しだ。
EV専門メディアのCleanTechnicaが12日(現地時間)に報じた。根拠となったT&E(Transport & Environment)の分析では、EUが自動車のCO2規制を弱めれば、バッテリー生産能力や雇用、エネルギー輸入構造に大きなコストをもたらすと警告している。
分析では、現行のEU規制、欧州委員会による緩和案、自動車業界の要望を反映した案の3シナリオを比較した。焦点は、2030年と2035年の排出目標にどの程度の柔軟措置を認めるかにある。
自動車業界の要望通り、2030年目標を5年間の平均で評価した場合、2030年の欧州のバッテリーEV生産は370万台まで減る可能性がある。T&Eは、これは現行予測のほぼ半分に当たるとしている。
2035年の排出目標が緩和された場合についても、バッテリーEVの生産見通しは46%下振れする可能性があると試算した。
打撃が大きいのは電池産業だ。EUは域内のバッテリー産業育成を進めているが、EV目標が引き下げられれば、域内需要の土台そのものが弱くなるためだ。
T&Eは、2030年時点の潜在的なバッテリー生産能力が3分の2超失われる可能性があると分析した。これはNorthvolt級工場34カ所分に相当する。雇用では最大4万7000人分に影響が及ぶ可能性がある。
バッテリーの主要材料である正極材も影響を受ける見通しだ。強いCO2規制が維持されれば、2030年までに欧州域内の正極材生産で需要の3分の2超を賄える可能性があるという。
一方、自動車業界の要望案が反映された場合、実現可能な正極材プロジェクトは5件にとどまり、2030年の想定需要の1割を満たすにすぎないとしている。
T&Eの車両・eモビリティサプライチェーン担当シニアディレクター、ジュリア・ポリスカノバ氏は「EVは世界の自動車産業の成長エンジンになった」と述べた。
そのうえで、「EUがEV生産を欧州域内に根付かせれば、クリーンテクノロジー産業の基盤で主導権を握れる。しかしCO2目標を弱めれば中国の先行を許し、欧州はバッテリーとEVの産業基盤を失うリスクがある」と指摘した。
EV普及の鈍化は、エネルギー輸入負担の増加にもつながる。T&Eは、目標が弱まりEV普及が減速した場合、2026~2035年のEUの石油追加輸入コストが500億ユーロ(約8兆2500億円)増える可能性があると明らかにした。
一方で、域内のEV市場が十分に拡大すれば、生産拡大とリサイクルの進展を背景に、バッテリー輸入依存度は7%まで低下しうるとしている。
現在、EUの立法機関は自動車のCO2目標を緩和するかどうかを協議している。T&Eは欧州議会議員と加盟国政府に対し、2030年目標の弱体化を認めないよう求めた。
あわせて、2035年のゼロエミッション車目標と、強力な域内生産要件が欧州のバッテリー産業構築に不可欠だと強調した。論点は環境規制の見直しにとどまらず、完成車と電池の投資先を左右する産業政策にも広がっている。