シンガポール金融管理局(MAS)は、実際の銀行口座情報と取引データを活用し、金融詐欺の検知に向けたAIモデルの有効性を検証する概念実証(PoC)に着手した。複数の銀行にまたがるデータを用いることで、詐欺の兆候をより早い段階で把握できるかを見極める。
Finextraが11日(現地時間)に報じたところによると、MASはシンガポール政府技術庁、シンガポール警察と連携し、詐欺検知能力の高度化を目的とした共同プロジェクトを進めている。
PoCでは、5銀行の過去の取引データを集約し、参加銀行の実口座番号を使ってAI・機械学習モデルを学習、評価する。各金融機関が個別に保有する既存の検知体制を補完し、銀行横断でデータを分析した場合に検知精度が高まるかを検証するのが狙いだ。
MASは今回の取り組みについて、AIと機械学習を活用した詐欺の早期検知の可能性を探るものだと説明した。実データをPoCの段階から投入し、モデルの精度に加え、実運用への適用可能性もあわせて評価する。
一方で、取り扱うデータの機微性を踏まえ、情報保護の仕組みも整備した。MASは、顧客情報保護に関する方針と手続きを適用した安全なデータ共有環境を銀行に提供したほか、業界参加者向けにも別の安全な共有基盤を構築した。
口座番号はハッシュ化して取り扱い、各銀行が自社の口座のみを識別できる設計とした。これにより、実際の口座番号を直接開示することなく、モデル学習と性能検証に必要なデータ連携を維持する。
今回のPoCは、単なる技術検証にとどまらない。銀行間でのデータ連携と個人情報保護を両立できるかを確認し、金融業界における共同データ活用の枠組みとして機能し得るかもあわせて試す位置付けとなる。
MASは、今回のPoCが各金融機関の既存の金融犯罪対策を置き換えるものではなく、AI・機械学習を組み合わせることで補完し、業界横断の連携基盤を強化するものだと強調した。共同データと追加モデルの活用によって、個別行では見つけにくい不正の兆候を捉えやすくする考えだ。
今後はPoCの結果を踏まえ、より広範なデータセットや多様な活用事例を取り込みながら、モデルの適用範囲と精度の拡大を検討する。複数銀行の履歴データを束ねた際に実際に検知性能が向上するか、またハッシュ化と管理された共有環境によって継続的な実データ連携に必要な保護水準を確保できるかが、今回の検証の焦点となる。