米上院で14日に採決される見通しの暗号資産市場構造法案「CLARITY Act」について、投資銀行TD Cowenは、成立にはなお政治面と利害調整の両面で大きな壁が残るとの見方を示した。主要論点の整理が年内に進まなければ、審議は2027年以降に持ち越され、制度の施行も2029年まで遅れる可能性があるとしている。
ブロックチェーン専門メディアThe Blockが11日(現地時間)に報じたところによると、TD Cowenは今回の採決を、最終合意に近づく局面というよりも、論点が上院本会議での本格論戦に移る段階と位置付けた。
上院銀行委員会は9日、CLARITY Actの14日の採決日程を正式に確定した。ただ、法案を巡っては、ステーブルコイン準備金の運用収益の配分や、公職者を対象とする利益相反規制を巡り、すでに強い異論が出ている。
TD Cowenワシントン・リサーチ・グループのマネージング・ディレクター、ジャレット・セイバーグ氏は、「今回の採決は合意のシグナルではなく、争点を上院本会議での採決段階に移す意味合いが強い」と分析した。
日程面も重要な論点だ。セイバーグ氏は、年内の成立を目指すなら、上院は8月の休会前に本会議での採決を終える必要があると指摘。委員会を通過しても、それだけで立法の成否が決まるわけではなく、その後も政治的なハードルが残るとした。
法案が上院銀行委員会を通過した場合、次の焦点は、上院農業委員会が準備している別の暗号資産法案との一本化協議に移る。その後は上院執行部が民主、共和両党と修正協議を進め、最終可決に必要な60票の確保を目指す見通しだ。
主要争点の一つが、ステーブルコインを巡る収益配分だ。暗号資産業界は、準備金の運用収益を民間事業者がより柔軟に活用できる仕組みを求める一方、銀行業界は伝統的な金融システムとの競争が激しくなることを警戒している。
セイバーグ氏は、Coinbaseをはじめとする暗号資産企業と既存銀行の双方が受け入れられる妥協点を見いだすのは容易ではないとみる。上院議員が、影響力の強い利害関係者の間で事実上の勝者を選ぶ構図になりかねないとも指摘した。
政治面では、利益相反規制がさらに大きな争点として浮上している。暗号資産に比較的前向きとされる民主党のカーステン・ギリブランド上院議員でさえ、高官やその家族による暗号資産事業への関与を制限する仕組みがなければ、法案支持は難しくなり得るとの見方が出ている。
この問題に関連しては、ドナルド・トランプ米大統領とその家族による暗号資産事業への関与が引き続き論争の対象となっている。TD Cowenは、トランプ陣営が自らの事業上の利害に影響しかねない厳格な倫理条項を受け入れる可能性は高くないとみている。
民主党にとっての政治的負担も小さくない。セイバーグ氏は、民主党が今後の中間選挙後に下院の多数派を奪還した場合、トランプ氏関連の暗号資産事業に対する調査圧力が強まる可能性があると指摘した。こうした中で、民主党議員が強力な利益相反規制を盛り込まないまま法案に賛成すれば、潜在的な利益相反を黙認したとの批判を招きかねないという。
法案にはこのほか、マネーロンダリング対策(AML)や銀行秘密法(BSA)、相場操縦規制の基準など、なお詰め切れていない論点が残る。足元では、商品先物取引委員会(CFTC)の委員ポストの空席問題に加え、暗号資産が対外制裁の回避に利用される可能性も新たな変数として浮上している。
TD Cowenは、年内成立の可能性について慎重な見方を維持した。セイバーグ氏は、最終的な立法プロセスではトランプ氏が直接関与する可能性も排除できないと分析。年内に主要論点の整理が進まなければ、審議は2027年に持ち越され、実際の規制施行も2029年まで遅れる可能性があると見通した。
市場では、14日の採決は暗号資産規制の枠組み確定に向けたゴールではなく、本格的な政治交渉と利害調整の出発点になるとの見方が広がっている。