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8月20日の施行を控える特定金融取引情報の報告及び利用等に関する法律(特金法)改正に合わせ、施行令・監督規定の改正案を巡ってデジタル資産業界の警戒感が強まっている。争点は、トラベルルールの適用拡大と、海外事業者や自己保管型ウォレットとの取引に対する報告義務の強化だ。業界では、資金洗浄防止(AML)体制の強化という方向性には理解を示す一方、実務負担が急増しかねないとの懸念が広がっている。

金融当局と業界によると、金融委員会は3月30日から5月11日まで、特金法施行令・監督規定の改正案について意見公募を実施した。

今回の改正案は、2月19日に公布された改正特金法が8月20日に施行されるのに合わせ、法律で委任された細則を定めるもの。金融委員会は、規制改革委員会や法制処の審査、次官会議と国務会議の議決を経て、7月中の改正完了を見込んでいる。

焦点の1つが、デジタル資産の移転取引に対するトラベルルールの適用範囲拡大だ。改正案では現在、国内のデジタル資産事業者間で100万ウォン以上の移転に適用している情報送信義務を、100万ウォン未満の取引にも広げる。

金融委員会はその根拠として、国内事業者間のデジタル資産移転の約60%が100万ウォン未満である点を挙げる。少額取引がトラベルルール回避や資金洗浄に悪用される可能性があるとの判断だ。

これに伴い、送信側だけでなく受信側のデジタル資産事業者にも必要情報の確認義務を課す。受信側は送信側から情報提供を受けられない場合、情報提供を求め、必要に応じて取引を拒否する措置を講じなければならない。

業界では、これにより国内事業者間の移転取引の大半が事実上、トラベルルール管理の対象になるとみている。少額取引まで確認手続きが及べば、入出金の待機や追加確認、取引遅延など、利用者の不便が増すとの指摘も出ている。

もう1つの大きな論点は、海外のデジタル資産事業者や自己保管型ウォレットとの移転取引に関する報告義務だ。改正案は、国内事業者によるこうした相手先との移転を限定的に認める一方、1000万ウォン以上の取引については、リスクの高低にかかわらず疑わしい取引として金融情報分析院(FIU)に報告するよう求めている。

ただし、国内事業者同士の1000万ウォン以上の取引まで一律に疑わしい取引報告(STR)の対象とする趣旨ではない。金融委員会は、海外事業者や自己保管型ウォレットは特金法上のAML規律の遵守義務を直接負っていないことを前提にしている。

国内事業者については比較的、AML措置を整備しやすい一方、海外事業者や自己保管型ウォレットとの取引には規制の空白が生じ得る、というのが当局の説明だ。

改正案では、低リスクの海外デジタル資産事業者向けの移転は認める一方、それ以外の海外事業者や自己保管型ウォレットについては、送金者と受取人が同一の場合に限って許容し、高リスク事業者との取引は制限する枠組みを示した。

業界は、この条項が原案通り施行されれば報告件数が急増しかねないと懸念する。デジタル資産取引所共同協議体(DAXA)は先月、国内で届け出を受理されたデジタル資産事業者27社の意見を踏まえ、金融委員会に意見書を提出した。

業界は、改正案が施行されれば、国内5大デジタル資産取引所のSTR件数が昨年実績ベースで最大85倍に膨らむ可能性があると主張する。STRは単なる行政報告ではなく、取引分析や顧客審査を伴う手続きであるため、別建ての報告体系が必要だとの声も上がっている。

具体的には、銀行の高額現金取引報告(CTR)のように、一定金額以上の取引そのものは別の体系で報告し、実際に資金洗浄が疑われる取引は既存のSTR体系で管理すべきだという考え方だ。

改正案では、顧客確認義務の強化も主要項目に盛り込まれた。特金法上の顧客確認義務は、顧客の本人確認にとどまらず、確認した情報の正確性を検証する義務まで含むことを明確にした。

また、金融機関や政府のリスク評価の結果、顧客の資金洗浄リスクが高いと判断された場合や、高リスクの商品・サービスを利用する場合には、強化された顧客確認(EDD)を実施すべきだとした。

業界では、顧客確認情報の検証義務が強化されれば、所得情報や勤務先情報、資金の源泉、取引目的などに関する追加資料の提出要求が増える可能性があるとみている。

特に法人顧客や機関投資家の取引が増えれば、海外事業者や自己保管型ウォレットとの高額移転が繰り返される可能性があり、報告と確認の手続きが実務上の重荷になりかねないとの指摘が出ている。

施行令改正案は、デジタル資産事業者の参入規制も強化する。届け出審査の対象となる大株主の範囲について、最大株主に加え、代表取締役または取締役の過半数を選任した株主、さらに最大株主が法人である場合にはその法人の最大株主と代表者も含める。

財務状態と社会的信用に関する要件も具体化した。デジタル資産事業者には、直近四半期末の財務諸表ベースで負債比率が200%以下であることに加え、過去3年間に債務不履行などで健全な信用秩序を損ねた事実がないことを求める。役員と代表者については、金融会社支配構造法上の資格要件を満たさなければならない。

さらに、AMLや利用者保護に対応する組織体制を整備し、一定要件を満たす報告責任者とコンプライアンス監視人を置く必要がある。情報処理システムや内部統制体制も、届け出要件に含まれる。

今回の改正は、従来の代表者中心の審査を、大株主や支配構造全般にまで広げる内容といえる。金融当局は、不適格事業者の市場参入を防ぎ、AML体制を整備するための措置だとしている。

一方、業界では、審査範囲が広がるほど新規参入や既存事業者の支配構造変更の手続きが難しくなる可能性があるとみている。

FIUは5月13日、DAXAとウォン建てデジタル資産取引所の関係者と面会し、特金法施行令改正案に関する意見を聴取する予定だ。業界はAML体制強化の方向性自体には同意しつつも、一部条項については見直しが必要だとの立場を示している。

業界関係者は「AML体制の強化そのものに反対しているわけではない」としたうえで、「リスクの高低を問わず、金額基準だけでSTRを求めれば、報告件数だけが急増し、本当に疑わしい取引を選別する機能が弱まるおそれがある」と指摘した。

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