人工知能(AI)が人の仕事を担う領域を広げるなか、税制の前提そのものを見直す必要があるとの議論が強まっている。焦点はAIそのものに課税できるかではなく、自動化によって賃金から企業利益へ移る価値を、税制にどう反映させるかだ。
米ITメディアのTechRadarは7日(現地時間)、AI自体を納税主体とみなす発想には限界があり、自動化で拡大する企業利益や価値移転を踏まえて課税の枠組みを再設計すべきだとの見方を伝えた。
背景にあるのは、AIが人の仕事を代替するほど、賃金所得を軸にしてきた課税基盤が弱くなりかねないという問題意識だ。これまでは、個人が働いて所得を得て納税し、その財源を基に政府が社会保障や公共サービスを提供する構図が成り立ってきた。
だが、大規模言語モデル(LLM)や各種AIツールの普及で労働所得が細り、公的支出の需要が増えれば、政府財政への圧力は一段と強まる可能性がある。
こうした懸念は政策論議にも広がっている。ランド研究所は、AIの能力向上と普及が進むほど、経済的機会や社会的結束、民主的正当性を維持するための対応が必要になると警鐘を鳴らした。
OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏もAxiosのインタビューで、AIの超知能が大きな混乱をもたらす可能性があるとして、「新たな社会契約」の必要性に言及している。
一方で、AI自体を納税主体とみなす案には制度上の壁がある。税は権利と義務、責任を負う自然人や法人を前提としているが、AIシステムは財産を保有したり、納税申告をしたり、制裁を受けたりする法的主体ではないためだ。
その代替策として議論されているのが、企業利益課税の見直しや自動化税の導入だ。機械やAIが人の業務を置き換えれば、付加価値の帰属先は賃金から企業利益へと移る。
具体策としては、代替された労働者の賃金を基準に税額を算定する方法のほか、従業員1人当たり売上高や事業に占める自動化業務の比率といった指標を使い、人の労働がどの程度資本に置き換わったかを課税に反映させる案が示されている。
再分配の仕組みとしては、所得保障制度やAI配当基金といった構想も挙がる。AIで大きな収益を得る企業が財源を負担し、商用環境で使われるAIアプリケーションにコンピュート使用に応じた負担金を課して基金を積み立てる考え方だ。
集めた財源は直接給付に充てるほか、再教育や職業転換の支援に回すことも想定される。あわせて、シンガポール政府が市民にAI講座のプレミアム利用権を無償提供した事例も紹介された。
論点は各国の税制設計にとどまらない。AI経済は容易に国境を越えるため、税率差を利用した企業移転を防ぐには国際協調が欠かせないとの指摘もある。
AI時代の課税ルールに国際的な整合性がなければ、企業が低税率地域へ流れ、富の偏在が広がって世界経済を不安定化させる恐れがあるという。
今回の議論で問われているのは、AIに直接課税できるかどうかではない。AIが変える価値創出の構造を、政府がどこまで迅速に制度へ反映できるかという点にある。
技術革新に比べて税制改正のスピードが追いつかなければ、賃金減少が明確になった段階で危機対応的な制度設計を迫られる可能性がある。自動化が生産性を大きく押し上げる一方、多くの人々の生活基盤を不安定にするのであれば、再分配は選択肢ではなく、経済の安定を支える仕組みとして位置付けられる可能性がある。