OpenAIを巡るイーロン・マスク氏とサム・アルトマン氏の訴訟で、経営幹部のSMSが公開された。これを受け、業務上のコミュニケーション記録が法的紛争で証拠開示の対象になり得るリスクに改めて関心が集まっている。
米Business Insiderが7日(現地時間)に報じたところによると、2023年にサム・アルトマンCEOの解任を巡って混乱が広がった際、アルトマン氏と、当時暫定CEOを務めていたミラ・ムラティ氏が2日間にわたって交わしたSMSの内容が、裁判手続きの中で公開された。
公開されたメッセージには、アルトマン氏が取締役会やムラティ氏との面談を繰り返し求めたことや、ムラティ氏が取締役会は同氏の復帰を望んでいないと伝えたことなどが含まれていた。ムラティ氏は当時、取締役会とリアルタイムで連絡を取っていたとされるが、こうした機微な業務内容がテキストで残っていれば、そのまま訴訟の証拠となり得ることを示す事例となった。
今回の論点は、特定の人物間の対立にとどまらない。AIの普及やハイブリッド勤務の拡大で、業務上のやり取りは以前よりも記録に残りやすくなっている。コミュニケーションが複数のデジタルプラットフォームに分散するほど、機微情報も記録として蓄積されやすくなるという。
雇用分野を専門とするニューヨークの弁護士、ピーター・ラーバー氏は、個人の携帯電話に業務関連の内容が混在するケースを頻繁に目にすると述べた。業務用と私用の端末は分けて使うのが望ましいとした上で、私用端末であっても業務に使われていれば、訴訟で提出を求められる可能性があると指摘した。
同氏は「事件に関連する可能性のある資料はすべて証拠開示の対象になり得る」とし、「どの端末に保存されているかは重要ではない」と語った。
対象はSMSに限られない。ラーバー氏は、InstagramのダイレクトメッセージやWhatsAppでのやり取り、ChatGPTのプロンプトについても、事件との関連性があれば訴訟で開示や提出を求められる可能性があると説明した。
企業の会議で急速に普及しているAI議事録ツールについても、音声とテキストの記録を同時に残す点で、同様のリスクを抱えるとの見方が出ている。
こうした法的リスクは、デジタルコミュニケーション以外にも及び得る。ラーバー氏は、個人的な日記のような記録も証拠として用いられる可能性があると説明し、グレッグ・ブロックマンのOpenAI社長の事例がそれを示したと述べた。
また、私的な内容を含むSMSは年に1〜2回程度整理して削除するよう勧めた一方、自分が削除しても相手側が同様に対応するとは限らないとも付け加えた。機微な案件ほど、対面や通話でやり取りする方が適切な場合があるという。
SlackやMicrosoft TeamsではなくSMSを使えば職場の監視を避けられる、という発想も根本的な解決にはならない。SMSは社内プラットフォームの監視対象から一部外れる可能性はあるが、法的な審査や証拠開示そのものを免れるわけではないためだ。
リッチモンド大学の法学教授、カール・トビアス氏も、記録として残るコミュニケーションには注意が必要だと指摘した。「人は自分のコミュニケーションの方法についてさまざまな前提を置いている」とした上で、「その記録が後になって自分を不利にすることがある」と述べた。
今回の訴訟は、OpenAI内部の対立を超え、業務関連の会話がどのプラットフォームに保存されているかにかかわらず、法的紛争の中で開示対象になり得ることを改めて示した。とりわけ私用端末と業務利用が混在する環境では、何気ないメッセージ1通でも証拠として扱われる可能性がある。