AIによる生産性向上への期待が高まる中、企業の人事戦略が二極化している。人員削減によってコスト圧縮を進める企業がある一方、雇用を維持したまま既存社員の生産性引き上げを目指す企業も増えている。米Wall Street Journal(WSJ)が報じた。
WSJによると、足元で広がっているのは大きく2つの流れだ。1つは、AI導入を背景に人員を減らし、固定費を抑える戦略。もう1つは、当面は人員削減を行わず、既存の社員がAIを活用してより多くの業務をこなす体制へ移行する戦略だ。
AIをてこにした人員削減は、今年に入って目立っている。IT市場調査会社Gartnerが、企業の中間管理職以上の350人を対象に実施した調査では、AIエージェント、インテリジェント・オートメーション、または自律技術(autonomous technologies)を導入している企業の約80%が、人員削減を実施していることが明らかになった。
Microsoft、Meta、Oracleなどの大手企業も、AIを背景にした大規模な人員削減を打ち出しているか、あるいはすでに実施している。
SquareとCash Appを手がけるフィンテック企業のBlockは2月、最大40%の人員削減方針を示し、注目を集めた。企業向けコラボレーションソフトを提供するAtlassianも3月、AI投資と法人営業の強化を目的に、全従業員の10%に当たる約1600人を削減するとした。
直近では、米最大の暗号資産取引所Coinbaseが、AIによって働き方が変わりつつあるとして、従業員の14%を削減すると発表した。オンライン決済大手のPayPalも、AI活用拡大の一環として、今後2〜3年で20%規模の人員削減を進めるとしている。
Coinbaseのブライアン・アームストロングCEOは、「AIがCoinbaseの運営に組み込まれるにつれ、数百人規模の人員削減が可能になる」と説明した。その上で、「社員はAIエージェントがより多くの業務を担えるよう管理する役割を担う」と述べた。
もっとも、Coinbaseが今回打ち出した削減策については、AI導入との直接的な関係は薄いとの見方もある。
The Informationは、Coinbaseの今回のリストラについて、昨年の大規模採用の反動と報じた。従業員数は当時、前年比31%増の4951人となり、2021年の上場後に年末ベースの集計を始めて以降で過去最多だったという。
同報道によれば、今回のリストラ後もCoinbaseの従業員数は、2023年末の水準を大きく上回る見通しだ。
一方、AIを活用して成果を増やしつつ、現在の人員規模を維持できるとみる企業もある。解雇は伴わないものの、社員にとってはAIを使ってより多くの業務を担う働き方への転換を意味する。
音楽ストリーミング大手Spotifyもその一社だ。WSJによると、共同CEOのグスタフ・ソーデルストロム氏は、「生産性向上分を直ちに人件費削減に振り向けて人員を減らすこともできるが、人員規模をおおむね維持したまま、より多くの仕事を成し遂げることもできる」と説明。「当社は人員規模をおおむね維持しながら、より多くの製品を投入し、利用者により大きな価値を提供している」と述べた。
テーザーガン製造のAxon Enterpriseも、AIを前面に出した人員削減とは一線を画している。ジョシュ・イスナー社長は最近、約5000人の従業員に送ったメールで、当面はAIを理由にリストラを行わない方針を明確にした。
同氏は「当社の事業は引き続き堅調で、AIが浸透する時代でも人は必要だ」と述べた。
もっとも、人員を維持する企業でも働き方そのものは変わりつつある。WSJは人事分野の専門家の話として、「多くの職務は今後大きく変化するか、複数の役割が統合された形へ再編されるだろう」と伝えている。