ドイツが、連邦軍向けのAI・クラウド基盤整備で米大手テック企業への依存を抑える姿勢を鮮明にした。独軍の次世代セキュアクラウドを巡っては、米データ分析企業Palantirの採用に慎重な見方を示しており、軍事調達でもデータ主権と国家安全保障を重視する「主権型AI」の流れが強まっている。
CryptoPolitanによると、ドイツ連邦軍でサイバー・情報空間監察官を務めるトーマス・ダウム海軍少将は28日、次世代セキュアクラウド計画にPalantirのソフトウェアを採用する可能性について、否定的な見解を示した。
この事業は、独軍がデータ処理とAI活用を目的に整備を進めるプライベートクラウド基盤。ドイツ国防省は、将来のデジタル戦場を支える中核インフラと位置付けている。
ダウム海軍少将は、焦点は技術性能ではなく運用体制にあると説明した。ドイツはすでにPalantirの「Maven」プラットフォームを通じ、北大西洋条約機構(NATO)や一部加盟国が作成した情報分析を活用している。ただ、運用に外部要員、特にPalantir側の関係者が関与している点を懸念しているという。
同氏は、米民間企業にドイツの国家データベースへのアクセス権を与えることは、現時点では考えにくいと述べた。軍の中核データの統制を海外企業に委ねることはできないとの認識を示した形だ。
ドイツは候補企業を、独Almato、独Orchris、仏ChapsVisionの3社に絞り込んだ。各社は今夏に試験手続きに入る予定で、最終契約は年内に締結される見通し。独軍のAI基盤が、米企業主導ではなく欧州サプライチェーン中心に再編される可能性が高まっている。
こうした警戒感の背景には政治面の事情もある。ボリス・ピストリウス国防相は過去、Palantir共同創業者のピーター・ティールが独ドローンメーカーStark Defenceの株式を一部保有している点に懸念を示したことがある。当時、国防省はティールが経営権や運用統制権を行使しない保証を得たうえで、関連契約を承認した。
同様の動きはドイツに限らない。StanfordのHuman-Centered AI研究所は最近の報告書で、各国政府が特定の国や少数のサプライヤーへの依存を減らすため、AI主権の確保を競っていると分析した。英国は主権型AI組織に5億ポンドを投資する方針で、フランスとブラジルも自国主導のAI規制の枠組みを強化している。中国も米国と競合し得る主要AI強国の一つに挙げられている。
一方、米国はこうした流れをけん制する姿勢を強めている。2月に公開された米国務省の公電によると、マルコ・ルビオ国務長官は外交官に対し、海外のデータ主権法案に反対するロビー活動を指示した。米政府は、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)をはじめとする各国の規制が、米AI・クラウド企業の海外展開を制約しかねないとみている。
ドイツの今回の判断は、米AI業界にも一定の影響を及ぼす可能性がある。SpaceXやOpenAI、Anthropicなどの主要AI企業は、大規模投資と赤字を受け入れながら成長戦略を進めており、海外の政府市場拡大を重要な収益源の一つと位置付けてきた。
特にOpenAIについては、利用者数の拡大や売上目標の達成ペースが想定に届いていないとの見方が社内で出ていると伝えられた。一部取締役が、サム・アルトマンCEOによる大規模データセンター投資戦略に懸念を示したとも報じられている。
防衛や公共インフラの発注が、米企業中心から自国・地域サプライチェーン中心へ移れば、米AI企業が描いてきたグローバル成長シナリオの見直しは避けにくい。独軍の判断は、AI競争の軸が性能からデータ主権と国家安全保障へ移りつつあることを示す事例といえそうだ。