数学の専門教育を受けていない学生が、ChatGPTの着想支援を足がかりに、約60年にわたり未解決だった数学問題の解法に到達した。AIが答えをそのまま示したのではなく、人間が候補を選別し、検証を重ねて仕上げた点が注目を集めている。
Gigazineが27日(現地時間)に報じたところによると、23歳の数学愛好家リアム・プライスは、数学者ポール・エルデシュが提示した未解決問題に対し、既存の専門家とは異なる切り口から解法を見いだした。
鍵となったのは、AIの使い方だった。プライスは定理の適用や厳密な証明から出発するのではなく、まずChatGPTに幅広くアイデアを出させ、その中から有望な着想を人間が選び出して磨き上げる手法を採ったという。
ChatGPTが完成した正答を直接示したわけではない。人では発想しにくいアプローチを複数提示し、プライスがその中から有効な手掛かりを選び、実際の解法へとつなげた。最終的に示された解法は、数学の専門家も想定していなかった方向性だったとされる。
今回の事例は、AIが数学者を代替したというより、人間の思考の幅を広げる道具として機能した例といえる。数学者テレンス・タオは「多くの人はこの問題に取り組む際、最初の一手の段階でやや誤った方向へ進んでいた」と指摘した。長年解けなかった背景には、問題そのものの難しさに加え、人間の思考の癖が影響していた可能性もあるという。
数学界では、既存の直観や慣習に縛られにくいこうしたアプローチが、ほかの未解決問題にも応用できるのではないかとの期待が出ている。研究現場でも、ChatGPTを使って過去の文献を見直したり、見落としていた部分的な解法を探ったりする事例が報告されており、AIの支援で新たな証明の着想を得た研究も現れ始めている。
今回の協働におけるChatGPTの役割は、従来語られてきた生成AIの活用像ともやや異なる。完成した答えを出す計算機や証明ツールではなく、取り得るアプローチを広く洗い出す発想支援ツールとして機能したためだ。誤りと可能性を切り分け、数学的に意味のある方向だけを残すプロセスの中心は、あくまで人間側にあった。
この点は、AI活用で重要なのがツールを使う技術だけではなく、人間の検証能力でもあることを示している。AIが示すアイデアがすべて正しいわけではなく、どこを生かし、どこを捨てるかを見極める力が欠かせない。プライスの成果も、ChatGPTの出力をそのままなぞった結果ではなく、AIが投げかけた手掛かりを人が最後まで解釈し、証明可能な形に整理した結果に近い。
もっとも、現時点のAIの限界も明確だ。厳密な数学証明を自律的に構築するにはなお制約があり、今回もChatGPTが示した証明は完成度が低く、人間による解釈と検証の工程が不可欠だった。AIが直ちに数学者を置き換える段階にはないことも改めて示された。
それでも意義は小さくない。専門教育を受けていない個人がAIと協働し、専門家でも到達できなかった解法に近づいたためだ。数学研究で重要なのは、正答を自動生成する能力だけでなく、既存の思考の枠組みから外れた経路をどう見つけるかにあるのかもしれない。AIは当面、証明を代行する道具というより、人間が見落としていた可能性を広げる探索ツールとして先に定着していきそうだ。