欧州各国で、米国製ソフトウェアやクラウドサービスへの依存を見直し、域内の「主権技術」へ切り替える動きが広がっている。背景には、米国のCLOUD Actによる域外適用への懸念に加え、米欧間の政治的な緊張もある。フランスではWindows依存の縮小が進み、欧州委員会も域内事業者を対象にした主権クラウド調達を進めている。
米ITメディアTechCrunchが27日(現地時間)付で報じたところによると、フランスはWindowsへの依存縮小に着手した。欧州委員会も、欧州のクラウド事業者を対象に主権クラウドの契約発注を進めている。
こうした動きの背景の一つが、2018年に施行された米国のCLOUD Actだ。同法は、米国に拠点を置くテクノロジー企業に対し、海外に保存されたデータであっても法執行機関の要請に応じて提出を求め得る内容となっている。データが欧州域内のサーバーに保管されていても、機微な公的データが米国法の影響を完全には免れないとの懸念がくすぶる。
フランスでは、医療データ基盤の移行が進む。フランス政府は1年前、医療データハブをMicrosoftのAzureから主権クラウドへ移す方針を示し、契約先にはフランスのクラウド企業Scalewayが選ばれた。
Scalewayは、フランスの通信グループIliad傘下の企業で、欧州全域でデータセンターネットワークの拡充を進めている。
欧州委員会は、総額1億8000万ユーロの主権クラウド入札で、Scaleway、Clever Cloud、OVHcloud、STACKITを選定した。一方、Amazon Web Services(AWS)が欧州側の懸念を踏まえて打ち出した「AWS European Sovereign Cloud」は対象に含まれなかった。
もっとも、米国技術の影響が完全に排除されたわけではない。事業者の一部は、ThalesとGoogle Cloudの合弁会社であるS3NSを活用しており、なお米国技術に依存する余地が残るとの指摘もある。
検索分野でも同様の動きが出ている。フランスの公共部門で標準検索エンジンの候補に挙がったQwantは、かつてMicrosoftのBingに依存していた。
その後、Qwantはドイツの非営利団体Ecosiaと連携し、欧州拠点のプライバシー重視型検索インデックス「Staan」を構築した。ただ、GoogleやBingに比べると利用者基盤はなお限定的だ。
自前技術への転換を巡っては、課題も浮き彫りになっている。フランス会計検査院は、ビデオ会議ツール「Visio」に関連する支出を問題視した。VisioはZoomやMicrosoft Teamsの代替として推進された経緯がある。
フランスの技術エコシステムでは、政府主導がなければ民間への普及も進みにくいとの批判が出ている。
欧州による米国技術依存の縮小が、直ちに域内企業の成長に結び付いているわけではない。民間企業の判断も分かれている。LufthansaとAir Franceは機内Wi-FiにStarlinkを採用しており、フランス国鉄SNCFも同様の選択を検討している。
フランスは、Windowsに代わる選択肢としてLinuxへの移行を進めている。オーストリア、デンマーク、イタリア、ドイツの公共機関でも、LibreOfficeなどオープンソースツールの採用が検討されている。
政治的な対立も、この流れを後押ししている。ドナルド・トランプ米大統領がグリーンランドの支配に意欲を示した後、デンマークのアプリストアでは米国製品の不買を呼びかけるアプリが上位に入った。欧州では、米国技術に関する契約の見直しを求める声も強まっている。
欧州委員会が採る複数ベンダー選定方式については、特定企業への依存を抑える効果がある一方で、欧州発の大手テクノロジー企業を短期間で育成するには限界があるとの見方もある。公共部門で域内技術の調達を義務付けるべきだとの主張も続く。
一方で、欧州の自前技術への需要拡大を追い風とする動きも出ている。Mistral AIは、OpenAIの代替需要の高まりを受けて売上高が増加したと伝えられている。カナダとドイツの政府は、AI企業CohereとAleph Alphaの合併を支援している。