10年以上動いていないビットコインをネットワークレベルで凍結する案を巡り、市場で議論が広がっている。量子計算機による将来的な攻撃に備える狙いだが、セキュリティ強化とビットコインの基本原則が衝突する構図となっている。
CoinDeskが4月26日付で報じたところによると、論点の中心にあるのは、長期にわたって移動していない約560万BTCの休眠資産だ。量子計算機の発達によって、初期のウォレットなど脆弱な資産が将来的に攻撃対象になり得るとの懸念が背景にある。
議論の発端となったのは、今月初めに示されたビットコイン改善提案「BIP-361」だ。既存の暗号署名方式を段階的に廃止し、新たな方式へ移行する内容を含んでおり、移行できない資産は事実上凍結される可能性がある。提案に関わった開発者は、量子計算機が初期ウォレットを狙う事態を見据え、あらかじめ対応を進める必要があると主張している。
これに対し、反対論も根強い。特定の条件下でネットワークが資産を凍結する前例を認めれば、ビットコインの中核的価値である検閲耐性や、保有資産の不可侵性が損なわれかねないためだ。一度例外を認めれば、将来的に別の理由でも介入が広がるとの懸念も出ている。
特に市場が注視しているのが、機関投資家への影響だ。ネットワークが資産に介入し得るという認識自体が、これまでの投資判断の前提を揺るがしかねないとの見方がある。この場合、価格は段階的に調整するのではなく、一気に再評価される可能性があるとの指摘もある。最悪の場合、ビットコイン史上最大級の日次変動につながるとの見方も浮上している。
ビットコイン関連インフラ企業OP NETの創業者、サミュエル・チャド・パット氏は、「検閲から自由であるという前提でビットコインに投資した機関投資家は、保有を見直さざるを得なくなるだろう」と述べた。その上で、「それは選択の問題ではなく、資産が従来の投資条件に合致しなくなるためだ」との見方を示した。
一方で、量子計算機の脅威を現実的なリスクとして捉える声もある。一部の市場参加者は、完全な解決策がない以上、「凍結」と「ハッキングを容認すること」の間で選択を迫られる可能性があるとみる。限定的な介入によってシステム全体の信頼を守る方が、長期的には合理的だという主張だ。
技術面のハードルも高い。休眠資産の凍結は単なるソフトウエア更新では済まず、ネットワークルールの変更を伴うハードフォークに発展する可能性が大きい。実現にはコミュニティの合意が不可欠で、調整は難航するとみられる。
今回の論争は、量子計算機という新たな脅威を前に、ビットコインが何を優先するのかを改めて突き付けている。セキュリティ確保のために一定の介入を認めるのか、それともどのような状況でも原則を守るのかが問われている。
市場では、BIP-361を巡る議論は単なる技術論争にとどまらず、ビットコインのガバナンスや投資対象としての魅力にも関わる重要な論点と受け止められている。合意形成の行方次第では、ビットコインを巡るリスク認識と価格形成の構図が同時に変わる可能性がある。