SpaceXは26日、法人向けAI、衛星、宇宙インフラを組み合わせた成長戦略を投資家向けに示した。市場では、同社の企業価値が1兆8000億ドル(約270兆円)規模に達する可能性も取り沙汰されている。一方で、Starshipの開発進捗やガバナンスを巡る懸念が、戦略実行上の不確実要因として残っている。
ブロックチェーン系メディアのCryptopolitanによると、SpaceXは上場関連の文書で総到達可能市場(TAM)を28兆5000億ドル(約4275兆円)と試算した。このうち、法人向けAI市場は22兆7000億ドル(約3405兆円)を占めるとしている。
同社が重視しているのは、単なる打ち上げ事業ではなく、データとコンピューティングを軸とした事業基盤だ。ロケットを基盤インフラ、衛星をキャッシュ創出源、法人向けAIを主力収益源と位置付けた。
さらに、軌道データセンターをこの両領域を結ぶ中核に据えた。宇宙採掘も事業領域に含めたが、収益化の道筋はなお見えていない。
前提条件として同社は、次世代打ち上げ機「Starship」の開発が計画通り進まない場合や、打ち上げ頻度、再使用性、性能を十分に確保できない場合、戦略の実行が遅れたり制約を受けたりする可能性があると説明した。拡張戦略の成否は、Starshipの商用化ペースに大きく左右される構図だ。
もっとも、この市場規模の見立てには慎重な見方もある。巨大なTAMを掲げるだけでなく、実際にどこまで取り込めるかを示す必要があるためだ。
この点では、Uberが2019年のIPO時にTAMを12兆3000億ドルと示した事例と比較する声もある。SpaceXは打ち上げ機と衛星分野で高い競争力を持つものの、一部の市場については既存の事業領域として捉えにくいとの指摘が出ている。
同社は欧州との差も構想の裏付けとして挙げた。SpaceXが昨年170回の打ち上げを実施したのに対し、欧州は8回にとどまったという。
2025年時点の軌道投入貨物量でも、欧州のArianeGroupが約16トンだったのに対し、SpaceXは2400トン超とした。欧州が宇宙主権や戦略的自律性を掲げる一方、既存の体制は政治的利害に縛られているとして、対照的な構図を示した。
ガバナンスリスクも改めて注目されている。創業者のイーロン・マスク氏は2018年1月にSpaceXから1億ドル(約150億円)を借り入れ、その後2019年から2021年初めにかけて計5億ドル(約750億円)を追加で借り入れたとされる。
金利は1%未満から3%水準で、これらの借入は2021年末までに返済されたと伝えられた。ただ、米証券規則では、上場企業が役員に同様の貸し付けを行うことは認められておらず、論点の1つとなっている。
SpaceXが、マスク氏の率いる他社を資金面で支えてきた点も、投資家の懸念材料として挙げられた。資金需要の大きかったTeslaへの貸し付けやSolarCityへの投資、大規模資金を要するAI企業xAIを巡る動きなどが含まれる。
Founders Fundなど一部投資家は、マスク氏の利害が他の株主より優先される可能性を懸念してきた。マスク氏は過去のインタビューで、企業間の資金移動について「ある会社が他社よりはるかにうまくいっていたいくつかの場面で資金を借りた」と説明している。
その上で、「投資家に資金を求めるなら、自分も投資すべきだという道徳的責任を感じる」と述べ、利益相反との指摘に反論した。
SpaceXの投資ストーリーは最終的に、打ち上げ機と衛星で築いた実行力を、AI、クラウドコンピューティング、宇宙インフラへどこまで事業として接続できるかにかかっている。Starshipの開発速度とガバナンスリスクという2つの不確実要因を抱える中、超大型の企業価値が実現するかどうかは、今後の実行力次第となる。