光源を増やさず、光制御の範囲を大きく広げたのが今回の成果の特徴だ(写真=Shutterstock)

量子コンピュータの大規模化で障害となってきたレーザー制御の負荷を、大幅に抑えられる可能性のある超小型の光学チップが登場した。米非営利研究開発機関MITREの「Quantum Moonshot」プロジェクトが開発したもので、少数のレーザーを多数の地点へ高速に振り分ける仕組みにより、装置構成の簡素化や消費電力の低減が期待される。

TechRadarが4月22日(現地時間)に報じた。チップのサイズは塩粒ほどで、限られた光源でより多くの対象を高速に制御できる構造を採る。大規模な量子システムで課題となる、機器の増加や電力負担の抑制につながる可能性がある。

開発にはMITREのほか、マサチューセッツ工科大学(MIT)、コロラド大学ボルダー校、サンディア国立研究所などが参加した。光ベースの制御技術と固体材料を組み合わせ、多数の量子ビットを安定して扱える拡張性の高い量子コンピュータの実現を目指している。

レーザーで量子ビットを制御する方式は、量子コンピュータの有力な手法の一つだが、規模の拡大に伴って限界も指摘されてきた。量子ビットが数百万規模に増えると、従来のように個別のレーザーで制御する方式では、必要な装置の数も制御の複雑さも急増するためだ。研究チームはその打開策として、少数のレーザービームを多数のターゲットに高速で振り分けるアプローチを採った。

公開したチップの面積は約1平方ミリメートル(1mm^2)。内部には微細なカンチレバーのアレイを備え、それぞれが光の進路を変える役割を担う。電圧を加えると、構造内の窒化アルミニウム層が膨張・収縮し、カンチレバーが作動する。これにより、導波路を通った光を2次元表面上のさまざまな位置へ高精度に走査できるという。

性能面でも大きな改善がみられた。IEEE Spectrumによると、このチップは毎秒約6860万点を走査でき、従来のマイクロミラー型ビームスキャナーに比べて50倍超の高速化を実現した。研究チームは、これは物理的に到達可能な回折限界に近い水準だと説明している。

技術デモでは、極めて狭い領域に精密な画像を描画することにも成功した。代表例として、ヒトの卵子2個分より小さい領域に「モナリザ」を再現したという。開発で難しかったのは、ハードウェアの製造そのものよりも、数千に及ぶ微細構造の動きを同時に精密制御する点だった。

応用先は量子コンピュータにとどまらない。研究チームは、同じ走査技術をレーザー製造工程、とりわけ3Dプリンティングに展開できるとみている。従来は数時間を要した工程を、数分単位まで短縮できる可能性があるという。加えて、イメージングや高性能コンピューティング、バイオ実験装置への応用可能性にも言及した。

現在は、カンチレバー構造をらせん状に変形させる方式も検討している。細胞単位で光を使って化学反応を誘導・計測する「lab-on-a-chip」システムへの活用も視野に入れる。

もっとも、技術はなお実験段階にある。ただ、少数の光源で多数の地点を制御できる構造が実用化されれば、量子コンピュータだけでなく、大規模な計算基盤全体で装置の簡素化や省電力化を後押しする可能性がある。今後は実システムへの適用可否に加え、コンピューティングインフラの設計そのものを変える技術へ育つかが焦点となりそうだ。

キーワード

#量子コンピュータ #光学チップ #レーザー #MITRE #Quantum Moonshot #3Dプリンティング #lab-on-a-chip
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.