AIが企業向けソフトウェアを代替するとの見方、いわゆる「SaaSpocalypse(SaaS終末論)」が広がるなか、既存のソフトウェア大手が巻き返しに動いている。各社はAIエージェント向けの新たな基盤を打ち出す一方、SaaSそのものが不要になるとの見方には明確に反論している。
その動きが目立つのがSalesforce、ServiceNow、Adobeだ。いずれもAIエージェントを軸に製品戦略を再構成しつつ、既存プラットフォームの価値はむしろ高まるとの立場を鮮明にしている。
Salesforceは、AIエージェント向けに最適化した「Salesforce Headless 360」を発表した。
Headless 360では、ユーザーが画面を開いて操作しなくても、AIエージェントがSalesforceの各機能をAPIやMCPツール、コマンドラインインターフェース(CLI)経由で直接呼び出して実行できる。従来のようにWebブラウザー上で画面を見ながら操作する前提を外し、UIに依存しない利用形態を打ち出した格好だ。
VentureBeatはこれについて、AIエージェントが推論し、計画し、実行する環境では、グラフィカルUIベースのCRMがなお必要かという問いに対し、Salesforceが「必ずしもそうではない」との答えを示したものだと報じた。
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、Salesforceは年内に、コードネーム「Agent Albert」と呼ぶ新たなAIプラットフォームの公開も計画している。Agent Albertは、AIがユーザーを自動的に分析し、ユーザーに代わって行動することに重点を置くという。
AI脅威論の広がりを背景に、Salesforceの株価は年初来で28%下落した。そうしたなか同社は、「SaaS終末論」への反論を強めている。
WSJによれば、マーク・ベニオフCEOは「AIはSalesforceを、これまで以上に顧客にとって価値ある企業にする」と述べたうえで、「AI企業は、たとえ望んでもSalesforceが提供するものを代替できない。最終的にはSalesforceと協業することになる」と語った。
企業がバイブ・コーディングによって独自の営業管理ソフトを構築できるとの見方についても、ベニオフCEOは「セキュリティやコンプライアンスといった中核機能でSalesforceに対抗できるものを簡単に作ることはできない」と指摘。「人々はわれわれが追い込まれていると考えているが、実際には機会はかつてなく大きい」と強調した。
ServiceNowのビル・マクダーモットCEOも、「SaaS終末論」は誇張されていると公に語っている。
マクダーモットCEOは最近、ポッドキャスト「No Priors」に出演し、「SaaSpocalypse」という言説を否定。そのうえで、言語モデルだけで既存のエンタープライズプラットフォームを再現しようとすると、「GPUファクトリーの構築やトークンコストなどにより、既存プラットフォームを利用する場合に比べ10倍以上の費用がかかる」と警鐘を鳴らした。
同CEOは、多くの企業が大規模言語モデル(LLM)に熱狂している一方、実際のビジネス価値を生み出すのはモデルそのものではなく、それを業務に落とし込む「ワークフロー」にあると主張している。
ServiceNowはSaaS終末論を否定するだけでなく、製品戦略そのものをAIエージェント中心へと切り替える動きも加速させている。サービス、プラットフォーム、製品全体にエージェント自動化機能を組み込む「AIネイティブアーキテクチャ」の実現を目標に掲げる。
クリエイティブソフト大手のAdobeも、AIエージェントを前面に据える戦略を進めている。最近では、AIエージェントプラットフォーム「CX Enterprise」を発表した。
あわせてAdobeは、業務を自律的に完遂するAIエージェント「Adobe CX Enterprise Coworker」も披露した。
シャンタヌ・ナラヤンCEOは「AIを中心に据えた新しいアプリケーションが登場するのは明らかで、それに伴ってビジネスモデルも変化する」と述べた。Adobeで顧客体験オーケストレーション製品を担当する上級副社長のアミット・アフジャ氏は、「CX Enterpriseは、AI時代にAdobeの技術をどう活用するかを明確に示す非常に大きな前進だ」と語った。
Adobeの株価も年初来で約30%下落しており、AIエージェント戦略によって流れを変えられるかが注目される。