Appleは9月1日付で、ティム・クック氏(CEO)に代わり、ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のジョン・ターナス氏を新CEOに充てる。クック氏は取締役会議長に就任する。ジョブズ時代以降では2度目となるトップ交代だ。新体制では、AI戦略の再構築、App Storeを巡る訴訟対応、中国依存に起因する地政学リスクへの備えが主要な経営課題として浮上している。
ターナス氏はApple在籍25年の生え抜きで、iPad、AirPods、iPhoneの複数世代のハードウェア開発を率いてきた。Intel製プロセッサからApple Siliconへの移行でも中核的な役割を担った。
クック氏はターナス氏について、「エンジニアの思考と革新者の魂、そして誠実さに裏打ちされたリーダーシップを備えている」と評価した。これに対しターナス氏は、スティーブ・ジョブズ氏の下で働き、その後はクック氏をメンターとして学べたことは幸運だったとしたうえで、「世界最高の人材とともに、より大きな何かの一部になれることをうれしく思う」と述べた。
一方で、引き継ぐ企業は時価総額4兆ドル規模に達している。米CNBCは、ターナス新体制の最優先課題としてAI戦略の立て直しを挙げた。
Microsoft、Google、Amazon、MetaがデータセンターやAIチップに年数千億ドル規模を投じるなか、Appleは独自の基盤モデル開発で出遅れ、AI機能の一部ではGoogleのGeminiに依存しているとされる。
2024年に投入した「Apple Intelligence」では、画像生成や通知要約、ChatGPT連携などを打ち出したが、市場の評価は分かれた。CEO交代を発表した公式リリースでも、AIへの言及はなかった。
フォレスター・リサーチのディパンジャン・チャタジー氏は、「生成AIが消費者のテクノロジー利用の在り方を根本から変えつつあるなか、今後数年のAppleは荒波の航海を強いられる」と指摘した。
もっとも、ターナス氏がハードウェア畑の人物であることは、Appleにとって追い風となる可能性もある。ノートルダム大学の経営学助教ティモシー・ハバード氏は、「Appleがハードウェアのリーダーを選んだのは、AIの未来がソフトウェア単体ではなく、緊密に統合されたデバイスにあるとの考えを示しているのかもしれない」と語った。
実際、Appleは2017年以降、AI処理に対応した独自シリコンを端末に搭載してきた。Bloombergによると、Siriを軸にしたAIウェアラブルとして、スマートグラス、ペンダント型端末、カメラ搭載AirPodsの3製品の開発も加速しているという。
Creative StrategiesのCEO、ベン・バジャリン氏は、「折りたたみ式iPhoneは、この数年で最も重要なハードウェアの節目になる」としたうえで、「iPhoneの次に何が来るのかが最大の問いだ」と述べた。
法務面のリスクも重い。TechCrunchによると、App Storeの収益構造は現在、裁判所から直接的な圧力を受けている。
Epic Gamesとの訴訟では、外部決済への誘導を認めるよう命じられた後も、Appleが外部決済に27%の手数料を維持したとして法廷侮辱と認定され、控訴審でも敗れた。
さらに、米司法省によるスマートフォン市場の独占を巡る訴訟も続いている。インドでは、アプリ市場での支配的地位の乱用を理由に、最大380億ドル規模の制裁金を科すべきだとの主張も提起されている。
Appleのインド市場でのシェアは約9%にとどまるとされており、こうした強硬な対応は異例との見方も出ている。
地政学リスクも避けて通れない。クック氏は中国のサプライチェーン依存を深める一方で、VPNアプリの削除や、iCloudデータの国家管理サーバーでの保管といった難しい判断を重ねてきた。
TechCrunchは、Appleがクック氏の新たな役割を取締役会議長として明記した点について、同氏が長年かけて築いてきた対外関係や調整力を、ターナス氏1人で直ちに代替するのは難しいことの表れだと分析した。
Appleを一般的なコンピュータメーカーから世界有数のIT企業へ押し上げたのは、時代を見通す力と継続的なイノベーションだった。ただ、企業規模が拡大するほど、革新のスピードは鈍りやすい。
時価総額4兆ドル企業となったAppleに今求められているのは、皮肉にも、ガレージから世界を変えると信じていたジョブズ時代の挑戦者精神なのかもしれない。