Infineon Technologiesは4月20日、RISC-Vベースの車載マイクロコントローラ(MCU)製品群を軸とする新たな戦略を明らかにした。従来のARMベース構成に加え、オープン標準の命令セットアーキテクチャ(ISA)を採用することで、OEM主導の開発を後押しし、特定ベンダーへの依存やサプライチェーン上のリスク低減を図る。
同社は同日、ソウルで開いた「次世代車載マイクロコントローラ戦略発表 記者懇談会」で、新たなAURIX RISC-V製品群のロードマップを公表した。エントリークラスから高性能帯まで車載用途を幅広くカバーする計画で、既存のAURIX TC(TriCoreベース)、TRAVEO、PSOCの各製品群に追加する。
InfineonがRISC-Vの強みとして挙げるのは、オープンなISAを採用している点だ。特定ベンダーに縛られず、必要な命令セットを選んでハードウェアを設計できるため、低消費電力化とダイ面積の最適化を両立しやすいとしている。
Choi Jae-hong Infineon Technologies Korea オートモーティブ事業部・技術総括副社長は、「ARMコアが既製服なら、RISC-Vはオーダーメードのスーツだ」と説明した。そのうえで、「世界中のエンジニアが共同で発展させる構造を持ち、モバイルやAIに続いて自動車分野でもエコシステムが広がっている」と述べた。
同氏はRISC-Vを「半導体のLinux」とも表現し、主な価値として3点を挙げた。第1に、ISO 26262やISO 21434への対応を進めやすい安全性とセキュリティ。第2に、エントリークラスからAIアーキテクチャまで広げられる拡張性。第3に、OEMごとのカスタム設計を支える共通基盤としての役割だ。
Infineonはこうした特性を踏まえ、ソフトウェアやツールのパートナーと連携し、半導体の提供前から利用できる仮想プロトタイプ(Virtual Prototype)も用意する。いわゆる「シフトレフト」の開発手法を通じて、顧客の市場投入までの期間短縮を支援する方針だ。
同社は合弁会社Quintaurisを通じ、業界各社とRISC-Vの商用化も進めている。TechInsightsによると、2026年4月時点の車載MCU市場におけるInfineonのシェアは36.0%で首位。前年から4ポイント上昇した。今回の発表により、車載RISC-V MCUの製品群を打ち出す業界初の半導体メーカーを目指す。
RISC-Vを軸にした協業も進む。トーマス・ベーム(Thomas Boehm)Infineon オートモーティブ・マイクロコントローラ事業部門 上級副社長は、ソフトウェア定義車両(SDV)への移行は将来の課題ではなく、すでに現在進行形のテーマだと強調した。具体例としてBMWとの協業を挙げ、次世代アーキテクチャ「Neue Klasse(ノイエ・クラッセ)」をベースにした初の量産モデルiX3には、高性能マイクロコントローラやネットワーキングコントローラ、パワー半導体、センサーなど、200点超のInfineon製部品が採用されたと紹介した。
ベーム上級副社長は、「Infineonは自動車業界におけるオープン標準としてRISC-Vを定着させるため、取り組みを進めている」と述べた。さらに、「自動車の競争力は機械的な精密性だけでなく、ソフトウェアの知能化によっても左右される。新機能やアップデートをどれだけ迅速に提供できるかが重要になる」と語った。
そのうえで、「SDV時代には、リアルタイム性能に加え、安全でセキュアなコンピューティング、柔軟性、拡張性、ソフトウェアの移植性がこれまで以上に重要になる」と指摘。RISC-VベースのMCUは、こうした複雑な要求に対応しながら車両設計の複雑さを抑え、市場投入までの時間短縮にもつながるとの見方を示した。