米航空宇宙局(NASA)の月探査計画「Artemis II」で、Orion宇宙船に搭載したレーザー光通信システムが高いデータ伝送性能を示した。報道によると、Apollo 13と比べて最大10万倍の通信性能を実証したという。
TechRadarが4月18日(現地時間)に報じた。今回の実証は、高解像度画像やテレメトリーデータの送受信量が増え続ける現在の宇宙ミッションに対応する、次世代通信技術の前進と位置付けられている。
近年の月探査ミッションが生み出すデータ量は、過去の計画と比べて大幅に増えている。Artemis IIでは、ミッション終了までに高解像度画像やテレメトリーデータを中心に約300〜400GBのデータが生成される見通しで、1960〜70年代の宇宙ミッションとは求められる通信能力の水準が大きく異なる。
これに対し、Apollo 13で扱われたデータ量ははるかに少なかった。今回の差は単なる通信量の増加ではなく、宇宙船と地上局の情報伝送のあり方そのものが変わりつつあることを示している。
こうした変化に対応する技術として導入されたのが、赤外線ベースのレーザー光通信だ。従来のSバンド無線通信に比べ、より高い周波数帯を使うことで、一度により多くのデータを送れる。NASAは、これによりデータ処理速度を大幅に引き上げられるとしている。
Orionに搭載された「O2O(Orion Artemis II Optical Communications System)」は、毎時約36GBのデータ伝送を記録した。従来の無線通信が1日当たり約7GBにとどまっていたのと比べると、大幅な高速化となる。
一方で、実運用に向けた課題も残る。レーザー光通信は気象条件の影響を受けやすく、雲や大気の状態によって信号が不安定になる可能性がある。このため、地上の受信施設は乾燥して標高の高い地域に設置する必要がある。
実験は、米ニューメキシコ州ホワイトサンズやカリフォルニア州テーブルマウンテンなど、観測条件の良い地域で実施された。システムは小型望遠鏡やジンバル、モデムなどで構成され、数日間の点検を経て運用されたという。
NASA関係者は今回の成果について、「より多くのデータは、より多くの発見を意味する」と意義を強調した。ただ、技術の成熟度にはなお課題があるとされ、このシステムは次の月面着陸ミッション「Artemis III」には適用されないと伝えられている。
また、「10万倍向上」という数値についても、単純比較には限界があるとの見方がある。Apollo 13の通信技術は1960年代の水準であり、現在の無線通信技術との隔たりを踏まえて受け止める必要があるという指摘だ。
専門家は、深宇宙環境でも地上局の頻繁な介入なしにレーザー光通信を安定運用できるかが今後の焦点になるとみている。オーストラリア国立大学の研究チームは、市販部品を用いたレーザー信号受信の実験を進めており、技術拡張の可能性を検証している。
今回の実証は、宇宙通信技術の重要な前進を示した。一方で、幅広い環境下での安定性と実用性を裏付けるには、追加検証が必要との見方も出ている。