写真=Blockstream

ビットコインが将来、耐量子暗号へ移行する局面を迎えた場合、サトシ・ナカモト関連ウォレットに残る資産の実態が見えてくる可能性がある。Blockstreamのアダム・バックCEOは16日、量子コンピュータの脅威が差し迫っていなくても、必要時に移行できる仕組みを今のうちに整えておくべきだとの考えを示した。

Cointelegraphによると、バック氏はパリ・ブロックチェーン・ウィークで、耐量子暗号へ切り替える際は、ネットワーク全体を一気に変更するのではなく、必要に応じて移行できる「選択的なアップグレード」を事前に設計するのが最も安全な方法だと述べた。あわせて、アドレス形式の移行が進めば、サトシ関連ウォレットにどれだけのビットコインが実際にアクセス可能な状態で残っているかを見極める手掛かりになるとの見方も示した。

論点となるのは、量子コンピュータに脆弱とされる既存のアドレス形式に残るコインを、新たなアドレス形式へ移す必要がある点だ。バック氏は、利用者には十分な移行期間が与えられる可能性が高いとしたうえで、その後も動かないコインは事実上、失われた資産とみなせるとの考えを示した。

同氏は「ポスト量子アドレス形式への移行は、サトシがそのコインをどの程度いまも保有しているのかを示す可能性がある」と述べた。

市場ではこれまでも、初期に採掘されたビットコイン、とりわけサトシに関連するとされる保有分が、量子コンピュータ時代のリスクを左右する要素の1つとして取り上げられてきた。サトシの保有量は50万〜100万BTCと推定されており、オンチェーン分析企業Arkhamは、ナカモト関連ウォレットに109万BTCが保管されていると試算している。

その現在価値は816億ドル規模とされる。

もっとも、バック氏は量子コンピュータの脅威が目前に迫っているわけではないとみている。同氏は「量子コンピューティングには、なお実証すべき課題が多い」と述べ、現状は実験室レベルにとどまっていると評価した。ビットコインの署名方式を脅かす水準の量子コンピュータが登場するには、少なくとも20年はかかるとの見通しも示した。

今月初めにも、現在の量子コンピュータの性能は「5ドルの計算機より低い」と発言している。

それでも、備えは今から始めるべきだというのが同氏の立場だ。量子コンピュータが実用段階に達してから対応するのではなく、既存利用者への影響を抑えながら、必要時に移行できる経路をあらかじめ用意しておくべきだとしている。

バック氏は「最も安全なアプローチは、必要なら耐量子暗号へ移行できる選択的アップグレードを構築することだ」と強調した。

Blockstreamは関連研究も進めている。バック氏によると、同社はビットコインのレイヤー2ネットワーク「Liquid Network」で、ハッシュベース署名の実装を進めてきた。また、ビットコインのTaprootも、既存利用者への影響を抑えつつ、代替署名方式を支援できる可能性があるという。

Blockstream Researchは2025年12月、楕円曲線デジタル署名アルゴリズム(ECDSA)とSchnorr署名に代わる量子耐性のある署名方式として、ハッシュベース署名方式を提案している。

こうした議論は足元で、ビットコインのプロトコルレベルの対応策にも広がっている。ジェイムソン・ロップ氏ら6人は15日、量子攻撃に脆弱なアドレス形式に紐づくコインについて、将来の移動を制限する内容のビットコイン改善提案を公開した。公開鍵がすでに露出している古いコインも対象に含めている。

狙いは、量子コンピュータが実運用可能な水準に達した際、脆弱な資産が大量に盗まれる事態を防ぐことにある。

一方で、この手法には反発も出ている。開発者で研究者のマーク・エアハルト氏は、こうした対応を権威主義的かつ没収的だと批判した。MetaPlanetの事業開発責任者フィル・ガイガー氏も、「盗まれないようにするために、先にこちらが奪うことになる」と指摘している。

脆弱な資産を事前に凍結する方式は、セキュリティ強化策であると同時に、財産権を侵害しかねないとの論点をはらむ。

ビットコイン業界ではこのため、対応の方向性が分かれている。1つは、ネットワークの継続性を損なわない形で耐量子暗号への移行経路を用意するアプローチ。もう1つは、量子攻撃の対象になり得る資産をあらかじめ制限し、被害を防ごうとするアプローチだ。バック氏は、仮に量子コンピュータの脅威が想定より早く現実味を帯びても、開発者は迅速に対応できるとの見方を示した。

今後の焦点は2つある。1つは、ビットコインコミュニティが量子脆弱性を持つアドレス資産の扱いについて、どこまで合意形成を進められるか。もう1つは、実際に移行手続きが導入された場合、サトシ関連ウォレットを含む初期保有分が新たなアドレスへ動くのかどうかだ。市場では、この点が大きな関心事になりそうだ。

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