画像=NASA、Blue Originの月着陸船「Blue Moon」のコンセプト画像

米国と中国が、月南極のシャクルトン・クレーター周辺を舞台に月面探査を本格化させる。米ITメディアArs Technicaによると、Blue Originの月着陸船「Endurance」と中国の「嫦娥7号」は、いずれも2026年後半に打ち上げられ、同クレーター縁辺部への着陸を目指す計画だ。水氷資源の探査と将来の月面拠点建設を見据えた競争が、現実味を帯びてきた。

両ミッションの意味合いは、単なる着陸の先陣争いにとどまらない。シャクルトン・クレーターの内部は太陽光が届かない永久影にあり、大量の水氷が存在する可能性が高いとみられている。

一方、クレーターの縁はほぼ継続して日照を得られるため、太陽光発電に適している。氷資源へのアクセスと電力確保を両立しやすいことから、次世代の月面基地候補地として注目を集めている。

Enduranceは、Blue Originの「Blue Moon Mk 1」をベースにした初の試験飛行となる。機体の全高は約8メートルで、約50年前のアポロ月着陸船(Apollo Lunar Module)を上回る大きさだという。

機体はこのほど、米ヒューストンのジョンソン宇宙センターで極限環境試験を終え、フロリダ州ケープカナベラルに移送された。打ち上げにはBlue Originの大型ロケット「New Glenn」が使われる予定だ。

これに対し、中国の嫦娥7号は比較的小型の着陸船を使うが、周回機、ローバー、飛行探査機を組み合わせた複合ミッションとして設計されている。中国は海南島の宇宙基地で打ち上げ準備を進めており、大型ロケット「長征5号」との統合作業に入っている。

着陸後は、ローバーと飛行探査機を使ってクレーター内部と周辺の土壌を調べ、水氷の存在量や分布を直接分析する計画だ。

打ち上げ時期は両陣営とも2026年後半以降が見込まれるが、どちらが先に着陸するかはなお見通せない。仮に両探査機が近い地点で同時期に活動すれば、異なる国の探査機が月面の近接エリアで並行運用される初の事例になる可能性がある。

ミッションの主眼は明確に異なる。Enduranceは、狙った地点に正確に降りる精密着陸の実証そのものが中心だ。Blue Originは具体的な着陸地点を公表していないが、創業者のジェフ・ベゾス氏は過去にシャクルトン・クレーター周辺への着陸計画に言及している。

Enduranceには、NASAが支援したカメラとレーザー反射器が搭載される。着陸時のエンジン噴射が月面の土壌に与える影響や、実際の着陸位置を計測する予定だ。

一方の嫦娥7号は、着陸後の科学探査に重点を置く。中国は月南極域における水氷の有無とその起源を直接確認することを主要目標としている。これは、米国が探査ロボット「Viper」を通じて進める月南極探査とも重なる部分がある。

今回の競争は、2030年代の月面基地建設と有人月着陸を見据えた前哨戦との位置付けでもある。米国は早ければ2028年に宇宙飛行士を再び月へ送ることを目標に掲げ、中国も2030年までの有人月着陸を進めている。

両国が月南極を戦略拠点とみなす以上、競争の激化は避けられないとの見方が出ている。

法的・外交的な論点もある。宇宙条約(OST)は、月を含む天体に対する領有権の主張を禁じる一方、基地の設置自体は認めている。このため、先行して進出した国が将来のルール形成に影響力を持つ可能性があると指摘されている。

これに関連して、米国は月面活動での相互干渉を最小限に抑える「安全区域(セーフティーゾーン)」の考え方を提案しており、アルテミス協定の署名国はこれを受け入れている。参加国は約60カ国に上るが、中国とロシアは加わっていない。

専門家の間では、今後は月南極周辺での活動がさらに集中するとの見方が強い。ロボット探査と有人ミッションの双方が、月南極点から100マイル圏内に集まる可能性が高いためだ。科学的価値と戦略的重要性を兼ね備える地域だけに、資源へのアクセスとルール形成の主導権を巡る競争は一段と激しくなりそうだ。

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