NVIDIAとHitachiは、Physical AIの適用領域をロボットから社会インフラ全般へ広げる。列車や電力網、工場設備といった実システムにAIを組み込むには、生成AIとは異なる水準の精度と検証体制が必要になるためだ。
ITmediaが15日に報じたところによると、Hitachiは社会インフラ向けAIソリューション「HMAX by Hitachi」を軸に関連事業を強化している。
Hitachi Americaで最高マーケティング責任者(CMO)を務めるアリア・バリラニ氏は、1月に米ラスベガスで開かれたCES 2026で、Physical AIを「物理世界を知覚し、推論し、相互作用し、行動するAI」と定義した。その上で、AIの適用先をロボットに限定すべきではなく、変圧器、送電網、列車、信号システム、バイオリアクターなどの社会インフラが主要分野になると強調した。
導入で焦点となるのは精度だ。NVIDIAでエッジAIとロボティクスを担当する副社長のティプー・タラ氏は、必要な精度を「何ナインか」という水準で説明した。ビル管理システムでは「6ナイン」、自動運転では「10ナイン」、手術ロボットでは「15ナイン」が求められるという。
生成AIの誤りが情報上の問題にとどまる場合があるのに対し、Physical AIの誤作動は安全性や運用に直接影響しかねないためだ。
社会インフラへのAI導入では、技術面以外の制約も大きい。Hitachiは、更新サイクルが数十年単位に及ぶ設備、デジタル接続が限定的な環境、厳格な規制対応を主要な課題として挙げた。
特に鉄道やエネルギー分野では、意思決定の追跡可能性に加え、必要に応じて人が介入し、AIの判断を停止・修正できる仕組みが不可欠だとしている。
NVIDIAは、こうした要件に対応する開発手法として、3つの計算基盤から成るアーキテクチャを提示している。データセンターでAIモデルを学習させ、シミュレーション環境で大規模な検証を重ねた上で、最終的に現場の運用システムへ適用する段階的なアプローチだ。
実際の工場や列車を停止させることなく、仮想環境で数百万回規模のテストを実施できる点が中核になる。
データ不足も大きな課題だ。工場の異常振動や鉄道レールの欠陥、バイオ工程の異常といった失敗データは、実際には収集しにくく、再現も容易ではない。このため、合成データの活用が広がっている。
NVIDIAのワールドファウンデーションモデル「Cosmos」は、多様な物理環境を生成し、実際のセンサーデータと組み合わせることで学習データを補完する用途を想定している。
NVIDIAはPhysical AIの普及に向け、複数の公開モデルも展開する。言語モデル「Nemotron」、自動運転向け「AlphaMayo」、ヒューマノイドロボット向け「GR00T」、バイオ医薬向け「BioNeMo」、気候シミュレーション向け「Earth-2」などが代表例だ。
モデルの重みと学習ツールを併せて公開し、企業が自社環境に合わせて活用できるようにする戦略としている。
HitachiのHMAXは、こうした基盤を踏まえ、モビリティ、エネルギー、産業の3分野を中心に設計した。変圧器や送電網、列車、工場設備などで蓄積してきたセンサーデータとドメイン知識を基盤に、合成データとAIモデルを組み合わせ、現場実装につながるソリューションへ発展させる構想だ。
Physical AIを巡っては、競争軸が単純なモデル性能から、データ、シミュレーション、規制対応、産業別の運用知見まで含めた総合力へ移りつつある。とりわけ停止が許されないインフラ環境では、AIそのものの性能以上に、どこまで検証を積み上げられるか、人がどこまで統制できるかが導入判断の重要な基準になりそうだ。