Andreessen Horowitz(a16z)は、企業のAI導入を巡る実態分析を公表した。Fortune 500企業の29%、Global 2000企業の19%が有力AIスタートアップのサービスを有料で利用しているとし、企業AIはパイロット段階にとどまるとの見方に異論を唱えた。導入が先行している分野として、コーディング、サポート、社内検索を挙げている。
企業のAI導入については、試験導入から本番利用へ進めないケースが多いとする見方が根強い。MITの調査でも、AIのパイロット案件の95%が本番導入に移行できず、実証止まりに終わるとされている。
これに対しa16zは、社内データや企業経営者との対話をもとに、こうした統計は実態を十分に捉えていない可能性があると指摘した。今回の分析では、企業がどの業務でAIを導入し、どの領域で投資対効果(ROI)が明確に表れているかの可視化を試みた。対象はエンタープライズAIで、消費者向け中心の企業は除外している。
a16zによると、Fortune 500企業の29%、Global 2000企業の19%が、有力AIスタートアップの有料顧客としてAIを本番利用している。
a16zは、この数字は従来の技術導入の常識とは異なる動きを示しているとみる。これまでFortune 500のような大企業は、一般にアーリーアダプターとは距離があり、スタートアップが大企業から本格受注を獲得するまでには数年を要するのが普通だった。
しかしAIでは事情が異なる。OpenAIが2022年にChatGPTを公開して以降、AIの潜在力は個人市場だけでなく企業市場でも一気に注目を集めた。a16zは、その結果として大企業のAI導入判断が従来より大幅に早まったとみている。
有料利用の観点で導入が最も進んでいる分野は、予想通りコーディングだった。これにサポート業務、社内検索が続く。
a16zは、コーディングをAIにとって最も理想的な活用領域の一つと位置付ける。コードは厳密な構文に基づき、出力結果も検証しやすい。実行して動作を確認できるため、効果を比較的測定しやすいからだ。
一方、サポート業務はソフトウェア開発とは対照的な領域とされる。多くの企業では、こうした業務は煩雑で複雑になりやすく、海外ベンダーやBPO事業者に委託されるケースも多い。
それでもAIはサポート分野と相性が良いとa16zはみる。特に顧客対応では時間制約が大きく、「返金処理」のように目的が明確なケースが多い。担当者が解決すべき課題も比較的定義しやすい。加えて、サポート部門は業務量が多く離職率も高いため、新人を迅速かつ標準化された形で教育する必要があることも、AI導入を後押しする要因だという。必要に応じて人間の担当者へ引き継ぐ運用も可能なため、効果を発揮するうえで100%の正確性が必須ではない点も大きい。
社内検索も、エンタープライズ分野で有力スタートアップが相次いでいる領域として挙げられた。
a16zは、多くの企業が抱える共通課題として、複数システムに分散した社内情報を従業員が容易に見つけ出し、取り出せるようにする必要性を指摘した。この分野ではGleanが有力企業として存在感を高めているという。
業種別では、テック、法務、医療がAI活用の先行分野に挙がった。ChatGPTに限ると、ビジネスユーザーの27%をテック業界が占める。CursorやGleanでも、初期顧客の相当数がテック企業だとしている。
テック企業がAIを積極活用すること自体は大きな驚きではないが、法務や医療はやや性格が異なる。法務は案件期間が長く、新技術の導入に慎重な領域とされてきたが、AIが明確な価値を示し始めたことが変化を促したとa16zは分析する。
法務分野では、従来の企業向けソフトウェアが弁護士にもたらす価値は限定的だった。ワークフローツールでは、弁護士が担う非定型で繊細な業務の効率化に限界があったが、AIの登場によって技術導入の価値提案がより明確になったとしている。
医療分野でも、従来のソフトウェアとは異なりAIの普及が急速に進んでいる。Abridge、Ambience Healthcare、OpenEvidence、Tennrといった企業は、診療記録の作成支援、医療情報検索、診療提供や請求に伴う複雑なルールの自動化といった具体的な用途を軸に、売上高を急拡大させているという。
もっとも、テック、法務、医療はいずれも有望分野として浮上している一方で、細分化の余地はなお大きい。法務には企業内弁護士、法律事務所、特許弁護士、原告側弁護士など多様なプレーヤーが存在し、それぞれワークフローや要件が異なる。医療分野でも、医師や医療機関の属性が幅広く、一括りにはできないとa16zは指摘した。
a16zはあわせて、AIモデル開発企業が最先端の研究開発をどこに集中させているかを見極める重要性も強調した。エージェント性能の急速な向上に加え、コンピュータ利用への大規模投資が進んでおり、テキストにとどまらず、スプレッドシートやプレゼンテーションなど多様な媒体を扱う信頼性の高いインターフェースの研究も進展している。この流れを受け、近く新たなタイプのスタートアップが相次いで登場するとの見方を示した。