Kepler Communicationsが、衛星10機をレーザー通信で接続した軌道上の分散コンピュート基盤の運用を本格化している。NVIDIA Orinプロセッサ約40基を使い、推論中心の処理を軌道上で担う構成で、宇宙データ処理市場の開拓を急ぐ。
米ITメディアのTechCrunchが4月13日(現地時間)に報じた。Keplerは1月に打ち上げた10機の衛星にOrinを分散搭載し、これらをレーザー通信リンクで結んで、単一のコンピュートクラスターのように運用している。
同社はこの構成を、軌道上で運用される最大級の分散コンピューティング基盤の一つと位置付ける。
顧客基盤の拡大も進む。Keplerは現在18社の顧客を抱えており、新たに宇宙ソフトウェアのスタートアップSofia Spaceを加えた。Sofia Spaceは、Keplerの衛星ネットワーク上で自社OSを動かし、実際の宇宙環境でソフトウェアを稼働させる実証を計画している。
今回の協業は、将来的な大規模宇宙データセンターの整備に先立ち、軌道上でデータを即時処理するモデルの有効性を示す狙いがある。業界では、SpaceXやBlue Originが構想する大規模な宇宙データセンターの本格展開は2030年代以降になるとの見方が出ている。
その前段階として、衛星センサーが取得したデータを現場で処理し、応答速度を高める需要が先行して立ち上がる可能性が高いという。
技術面では、分散構成のGPUを使った推論処理に軸足を置く。Keplerは、大規模な学習計算よりも、複数の衛星に分散したGPUでデータを高速処理する方式の方が、宇宙環境に適しているとみている。現在のGPU稼働率が100%近いことも強みとして示した。
Sofia Spaceは別途、受動冷却方式の宇宙向けコンピュータも開発している。大規模な軌道上データセンターで課題となる発熱への対応を念頭に置いた取り組みで、重量とコストのかさむ能動冷却装置を使わずに高性能な演算能力を維持する構造を目指す。
両社は今回の実証で、Sofia Spaceの独自OSをKeplerの衛星1機にアップロードしたうえで、2機の衛星にまたがる6基のGPUで実行する予定だ。地上では一般的な手法だが、軌道上で同様のソフトウェア展開と構成を試みるのは初めてだとしている。
Keplerにとっても、この協業は今後の事業拡大を占う取り組みとなる。現在は、地上からアップロードしたデータや、自社衛星に搭載したペイロードが取得したデータを処理しているが、今後は外部の衛星とも接続し、ネットワークと演算の両サービスを提供する構想を描く。
有力な顧客候補の一つとして想定されるのが米軍だ。米国では、衛星が脅威を探知・追跡する新たなミサイル防衛システムの開発が進んでおり、この分野では現場での迅速なデータ処理が重要になる。
Keplerはすでに米政府向けに、宇宙と航空機の間を結ぶレーザーリンクのデモも実施したという。
市場環境の変化も背景にある。米国の一部地域では、データセンター建設の制限や規制強化を模索する動きが出ており、長期的には宇宙ベースのデータ処理インフラが代替案として浮上する可能性も指摘されている。
Sofia Spaceは、こうした変化が想定より早く市場需要を押し上げる可能性があるとの見方を示した。
業界では、KeplerとSofia Spaceの協業を、今後の宇宙データセンター競争の方向性を占う試金石とみる向きがある。大規模設備そのものの競争に先立ち、軌道上でデータをいかに速く、効率よく処理できるかが、市場を先行する鍵になるとの見方だ。