イラン関連の地政学リスクと制裁リスクの高まりを背景に、西側銀行が一部の資源取引の決済から距離を置き始めている。こうした動きを受け、代替手段としてドル連動ステーブルコインの利用が広がっている。
CoinDeskが12日(現地時間)に報じたところによると、西側銀行の間では、制裁に抵触する可能性への警戒から、特定の資源取引への関与を見直す動きが出ている。その結果、生じた空白を埋めるかたちでステーブルコインの活用が進んでいるという。
この変化について、貿易金融向けステーブルコインを手がけるHaycenのルーク・サリー氏は、イラン情勢の緊迫化を受けて銀行のコンプライアンス負担が増し、資源市場で新たな銀行取引の打ち切りが起きていると説明した。一部のトレーダーについては「すでに銀行取引を切られている」と述べた。
銀行が特に警戒しているのはカウンターパーティーリスクだ。オマーンなど中東のハブ企業との取引のように、表向きは合法とみられる案件でも、制裁対象のイラン関連主体と間接的につながっている可能性があるためだ。
このため、リスクを取るよりも取引自体を見送る判断が増え、従来の銀行決済網へのアクセスは一段と細っている。
影響は、もともと銀行以外のプレーヤーの比重が大きい貿易金融市場でより鮮明になっている。約2兆ドル規模とされる貿易金融では、これまでも民間の信用ファンドなど非銀行系の貸し手が資金供給を担ってきた。
もっとも、最終的な決済は銀行網に依存してきた。足元ではこの接続部分も弱まり、代替インフラとしてステーブルコインが浮上している。
なかでも利用拡大が目立つのがTetherのUSDTだ。サリー氏は「Tetherが決済フローのかなりの部分を吸収している」としたうえで、新興国市場の取引では単発の決済手段としての活用が広がっていると説明した。背景には、高いグローバル流動性、広い受容性、各国でドルに換金できる仕組みの普及があるという。
ステーブルコイン市場そのものも拡大が続いている。時価総額は2025年に3000億ドルを超え、取引量は4兆ドルを上回った。オンチェーン活動全体に占める比率は約30%に達した。
従来は暗号資産取引向けの手段とみなされてきたが、足元では送金や貿易決済など実体経済での利用にも裾野が広がっている。
一方で、足元の動きを貿易金融の抜本的な解決策とみることには慎重な見方もある。サリー氏は「これは一種の迂回手段にすぎず、貿易金融全体の解決策ではない」と述べ、ステーブルコインが既存の金融インフラを完全に代替したわけではないと強調した。
こうした中、Haycenは貿易金融向けのドル連動ステーブルコイン「USDhn」を軸に市場開拓を進めている。同社は、銀行を介さないグローバル貿易向けに流動性と清算インフラを構築することを目標に掲げる。
利用者は資金を預け入れた後、ステーブルコインで取引し、規制要件に応じて利息を受け取れる仕組みだ。
銀行の後退が、結果として暗号資産の採用を早める可能性も市場の関心を集めている。サリー氏は、ホルムズ海峡の通航に関連する決済でビットコインが使われたとの報告にも言及し、貿易金融が非銀行プレーヤーと銀行外の決済手法によって運営されつつあるとの見方を示した。
地政学リスクが長引けば、資源取引の現場ではステーブルコイン決済への需要がさらに強まる可能性がある。