写真=Ciscoのビジョイ・パンデイ上級副社長

Ciscoでイノベーション・インキュベーター組織「Outshift」を率いるビジョイ・パンデイ上級副社長は4月9日、AIと量子コンピューティングの広がりによって、コンピューティングは従来の決定論型から確率論型へ移行しつつあるとの見方を示した。そのうえで、ネットワークとセキュリティの設計思想そのものを見直す必要があるとし、新たな構想「Internet of Cognition」を通じて次世代インフラ市場を開拓していく考えを明らかにした。

パンデイ氏は記者団の取材に対し、AIエージェントと量子コンピューティングはいずれも確率に基づいて動く「確率的エンジン」だと説明した。従来のように命令をそのまま実行するだけでなく、推論や判断を伴う処理が中心になるという。

同氏は、AIエージェントと量子コンピューティングを個別の技術トレンドとしてではなく、ネットワークの設計、運用、信頼の在り方を根本から変えるパラダイム転換だと位置付けた。Ciscoはこの変化に対応する枠組みとして、Internet of Cognitionを掲げる。

以下、AIと量子コンピューティングがITインフラ市場にもたらす変化と、Ciscoの戦略についての主なやり取りをまとめた。

――コンピューティングインフラの変化という観点で、AIをどう捉えているか。

「これまでのコンピューティングインフラは決定論に基づいていた。同じ入力に対して同じ出力が返ることが前提だった。しかしAIの台頭で、その前提は確率論型へと変わりつつある。出力は常に100%同一とは限らない。インフラにもそれに合わせた変化が求められる」

「従来のインターネットは、発見、アイデンティティ、プロトコル、テレメトリー/オブザーバビリティという4つの軸で成り立っている。AIエージェントの時代には、この4つすべてを見直す必要がある」

「これまでDNSが担ってきた発見の仕組みも、今後はエージェントの能力や関連性に応じて最適な相手を見つける形に変わっていく。アイデンティティについても、役割ベースではなく、AIエージェントがどのタスクを実行するのかに応じたアクセス制御が必要になる」

「プロトコルの面でも、エージェント同士が通信するための新たな仕組みが要る。単につながるだけでなく、協調動作まで支えなければならない。オブザーバビリティも、単なる監視では足りず、AIエージェントが意図通りに動いているかどうかまで把握できる必要がある」

――CiscoはAIインフラ戦略としてInternet of Cognitionを打ち出している。いま注目すべき理由は何か。

「AIモデルやエージェントは急速に高度化している。一方で、それぞれが高性能になっても分断されたままでは十分な価値を発揮しにくい。エージェントがチームとして連携すれば、成果も性能もさらに高まる」

「Internet of Cognitionは、そのためのオープンなアーキテクチャ層だ。エージェント間で意図をそろえるためのプロトコル群と、システム全体の集合的な記憶を維持するファブリックで構成される。これにより、エージェントが組織の境界を越えて共同で推論し、新たな価値を生み出せるようにする」

――Internet of Cognitionを支えるには、ネットワーク構造そのものの変化も必要ではないか。

「ネットワークのOSI 7階層モデルは、すでに時代に合わなくなりつつある。知能同士を接続し、推論まで可能にするには、いわばレイヤー8、レイヤー9に相当する考え方が必要だ」

「現在のネットワークは、起きていることを人が解釈して初めて理解できる部分が多い。新しいレイヤーでは、個々のエージェント単位ではなく、ネットワーク全体で何が起きているのかを状態情報として包括的に把握する必要がある」

――Internet of Cognitionの技術は現時点でどの段階にあるのか。今後のロードマップは。

「Internet of Cognitionは遠い将来の構想ではない。すでに商用化が始まっている。Ciscoはインターネットの4つの軸すべてにまたがって、必要なインフラを整備している」

「発見の領域ではWebexに機能を組み込んでいる。AIエージェントでインフラを管理できるAICanvasも提供している。アイデンティティについては、認証・アクセス管理ソリューションの『Duo』を通じてAIエージェント活用を支援する」

「量子分野でも製品展開を本格化する。近く量子セキュリティ製品を投入し、その後は量子ネットワーキング技術も公開する予定だ」

――確率論型コンピューティングでは、誤りの可能性をどう扱うのか。

「確率論型コンピューティングが広がっても、既存の決定論型の手法が置き換わるわけではない。新たな選択肢が加わるだけだ。用途に応じて両者の強みを使い分けられる」

「確率論型コンピューティングに適した領域もある。たとえば気候予測のような分野では、より有効に機能する可能性がある」

「Ciscoはデータ分析基盤のSplunkを通じて、評価機能も提供する。オブザーバビリティに近いが、モデルが正しく動いているかを継続的に確認し、そのフィードバックを基に改善していく点が特徴だ」

――量子コンピューティングはなお商用化が難しいとの見方もある。なぜ耐量子暗号の導入を急ぐべきだとみるのか。

「現在のRSA暗号方式は、量子コンピューティングが実用化されれば解読される可能性がある。しかも、解読に必要な量子ビット数は下がってきている。1万量子ビットで解読可能だという見方もある」

「すでに1000量子ビット級の量子コンピュータは登場しており、これを10台接続すれば1万量子ビット規模を構成できるという見方もある。そのため、2029年には量子コンピュータで既存の暗号体系が解読可能になるとの予測も出ている」

「こうした状況を踏まえると、新しいソフトウェアアーキテクチャが必要になる。その一環として、企業や組織は耐量子暗号を導入すべきだ。Ciscoは量子メカニズムを活用した鍵配送技術や量子セキュリティのロードマップに加え、量子ネットワークの構築にも積極的に投資している」

「量子ネットワークは従来型とはまったく異なる。ゼロから設計し直す必要がある新しいネットワークモデルになる」

――AIに最適化したITインフラを巡って各社の動きが活発化している。Ciscoの注力分野と差別化戦略は何か。

「Ciscoは、エージェンティックAIと量子コンピューティングの時代には、単に垂直方向に能力を高めるスケールアップでは不十分だと考えている。水平方向に拡張するスケールアウトと、スケールアウト型データセンター同士をつなぐ『スケールアクロス』が重要になる」

「Ciscoは単なるネットワーク企業ではなく、分散システムの企業だ。スケールアウトやスケールアクロスの環境で強みを発揮できる」

――企業はInternet of Cognitionにどう取り組むべきか。

「まずは実際に使えるユースケースを作ることが重要だ。Ciscoも、複数のエージェントを接続して協調動作させる事例を8件公表した。いきなり大規模に進めるのではなく、小さく始めて検証を重ねるのがよい」

「AIエージェント関連のオープンソースプロジェクトに直接参加するのも有効だ」

――AIを使った攻撃の高度化に、Ciscoはどう対応しているのか。

「攻撃側もAIを使うようになり、攻防の競争は今後も続く。Ciscoは公開データに加え、企業が持つ独自データも活用しながら、脅威への対応を支援していく」

「CiscoはAnthropicが次世代モデル『Mithos』を巡って打ち出したGlasswingプロジェクトにも参加している」。

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