ビットコインは、米国でインフレ高止まりと景気減速が同時に意識される中でも底堅く推移し、7万2000ドル台を回復した。ドル安と流動性供給への期待が相場を支える一方、中東情勢の不透明感や原油高は上値を抑える要因として意識されている。
9日付のCointelegraphによると、景気後退懸念の強まりとドル安が重なり、投資家の資金が希少資産に向かったことが、足元のビットコイン相場を支えた。
背景にあるのは、米マクロ指標の変化だ。米商務省経済分析局(BEA)が公表した2月のコア個人消費支出(PCE)物価指数は前月比0.4%上昇した。一方、同時期に示された米国の第4四半期の国内総生産(GDP)成長率は年率0.5%に下方修正された。
インフレはなお根強い一方で、成長は鈍化している構図が改めて確認され、市場では景気後退リスクを意識する見方が広がった。通常であれば景気減速懸念はリスク資産の重荷となりやすいが、今回は異なる反応が目立った。
市場参加者の間で、景気下支えに向けた流動性供給への期待が強まったためだ。米連邦準備制度理事会(Fed)が、インフレを再燃させずに景気後退を回避できるとの見方が揺らぎ、その結果としてドルが主要通貨に対して軟化したとの見方も出ている。
こうした環境は、ビットコインのような希少資産には追い風となる。目先は、景気後退リスクが相対的に希少資産に有利に働いており、インフレや雇用市場の見通しが直ちに大きな売り材料になる可能性は限られる、との分析もある。
ビットコインが法定通貨の価値低下に対する代替資産として完全に定着したわけではないものの、ドル安局面では需給面で優位に立ちやすいとの指摘もある。
もっとも、上昇基調がこのまま安定的に続くとは言い切れない。国際原油価格が再び上昇し、リスク資産全般の投資家心理を揺さぶる要因として浮上しているためだ。
WTI原油先物は、ドナルド・トランプ米大統領による停戦発表の直後には1バレル100ドルを下回ったが、その後はイランの高官級指導部が、米国とイスラエルが停戦を破ったと主張したことを受け、97ドル台まで戻した。
市場が特に注視しているのは、米国とイランの停戦が不安定な状態にある点だ。Yahoo Financeによると、イラン国会議長で元イスラム革命防衛隊(IRGC)将軍のモハマド・バゲル・ガリバフ氏は、イスラエルによるレバノンでのヒズボラ攻勢の継続、イラン領空への軍用ドローン侵入、ウラン濃縮の否認が停戦交渉に反する行為だと主張した。
中東の緊張が再び高まれば、原油価格が一段と上昇し、ビットコインを含むリスク資産の足元の反発を押し戻す可能性があるとの見方が出ている。
実際、市場ではビットコインが米経済指標そのものよりも、中東情勢の変化に敏感に反応したとの指摘がある。米マクロ指標への反応というより、イランを巡る地政学リスクをにらんだ投資家心理に沿った値動きだったというわけだ。
米株価指数先物も、停戦発表直後に強く反応した。S&P500先物指数は30日ぶりの高水準まで上昇し、現物株指数も過去最高値からおよそ2%安の水準で推移した。
こうした動きは、投資家が民間信用市場の問題や人工知能インフラ企業の債務コスト急騰を、なお全面的なリスクシグナルとは受け止めていないことを示している。同時に、債券の実質利回りの魅力が薄れる局面では、一部資金がビットコインに向かう余地も残る。
今後の焦点は2つある。1つは、米国の景気後退懸念がドル安と流動性期待を通じて、ビットコイン相場を支え続けるかどうかだ。
もう1つは、イランを巡る停戦のほころびと原油高が、リスク資産への選好を再び冷やすかどうかにある。市場の関心は7万2000ドル回復そのものよりも、中東リスクがくすぶる中でこの水準を維持できるかに移っている。