暗号資産取引所Geminiが整理した欧州・英国事業を巡り、買収観測が浮上している。買い手候補の狙いは事業そのものの取得よりも、現地での事業展開に必要な許認可の確保にあるとみられる。もっとも、欧州連合(EU)のMiCA(暗号資産市場規則)や英国金融行為監督機構(FCA)の枠組みでは、買収に伴って許認可が自動的に引き継がれるわけではなく、規制当局の審査が取引成立のカギを握る。
CoinDeskが4月9日(現地時間)に報じたところによると、関係者の話として、潜在的な買い手の一部はGemini全体ではなく、欧州・英国から撤退した事業部門の取得を通じて、当該地域での規制上の地位を確保する案を検討している。案件が非公開であることを理由に匿名を条件にした関係者は、Gemini全体の買収には関心がないと述べたという。
Geminiは2月、全世界の従業員のおよそ25%を削減し、英国、EU、オーストラリア事業を整理する再編を進めた。その後は米国とシンガポールを軸とする体制に組み替えた。
同月の開示では、最高執行責任者(COO)、最高財務責任者(CFO)、最高法務責任者(CLO)の3人が即日退任したことも明らかにした。Geminiは、これらの退任について、会社運営や経営方針を巡る対立が理由ではないと説明している。
今回取り沙汰されている案件は、単純な資産売却とは性格が異なる。Geminiはこれまで、現物取引のほか、機関投資家向けカストディ、ステーキング、利回り商品、法定通貨と暗号資産をつなぐ入出金インフラ、ブローカレッジや清算機能を備えた総合プラットフォームを展開してきた。クレジットカード経由でデジタル資産を積み立てるサービスも手掛けている。
ただ、買い手候補の関心はこうした事業機能そのものではなく、欧州・英国での規制上のポジションに集まっているもようだ。
欧州では、複数国での登録やMiCAライセンスを基盤に、単一市場全体でサービスを提供しやすくなる。英国では、FCAへの電子マネー機関登録によって一部の決済サービスを運営できるほか、承認済みの暗号資産サービス事業者として名簿に掲載される。新規に許認可を取得するには数年かかる可能性もあるため、既存事業の買収を現実的な代替策とみる向きがある。
もっとも、こうした許認可は買収と同時に自動承継される仕組みではない。MiCAの下では、ライセンス保有企業の買収は単なる名義変更ではなく、支配権の変更として扱われる。このため、規制当局は既存の許可をそのまま引き継ぐのではなく、取引そのものを改めて審査する。
買い手側は事前に届け出たうえで、承認、もしくは少なくとも異議なしとの判断を得る必要がある。英国のFCAも同様に、暗号資産企業の登録を譲渡可能な資産ではなく、あくまで審査対象として扱っている。
Geminiの株価も市場の関心を集めている。Geminiは2025年9月の新規株式公開(IPO)で公開価格28ドルで上場し、初日は37ドルを上回る水準で取引を開始したが、その後は下落基調が続いた。足元の株価は約4.36ドルで、公開価格を80%超下回る水準にある。
一方、関連報道を受けて株価は11%上昇した。FactSetによると、空売り残高は流通株式の約15%に達している。
今後の焦点は、実際の買収範囲と規制当局の審査の行方だ。買い手候補が狙うのはGemini全体ではなく、欧州・英国事業とそれに接続するインフラに絞られる可能性が高い。MiCAと英国の規制枠組みはいずれも、買収後の新たな支配構造を改めて審査するため、取引の成否は価格条件以上に規制当局の承認プロセスに左右される見通しだ。