Toshibaは8日、古典計算機上で量子計算を模擬する量子インスパイア型の新アルゴリズムを発表した。従来方式に比べて最大100倍の高速化と、ほぼ100%の精度を実現したとしており、1〜2年以内の実用化を目指す。
量子インスパイア型コンピューティングは、量子ハードウェアそのものを使うのではなく、量子系の数学的な振る舞いを古典計算機で再現する手法だ。専用の量子コンピュータがなくても、既存のサーバ環境で活用できる点を強みとする。
今回の性能向上では、「エッジ・オブ・カオス(edge of chaos)」の考え方を取り入れた。Toshibaによると、最適解を探索する過程で計算結果が規則性と不規則性の間を行き来する境界領域に着目してアルゴリズムを設計した。これにより探索効率を高め、計算精度の向上にもつなげたという。
同社は、従来モデルで約1.3秒を要していた問題を0.01秒未満に短縮した事例も示した。
Toshibaのシニアフェロー、フジタ・ハヤト氏は、「50年後の量子コンピュータでも難しい可能性がある速度と精度を達成した」とコメントした。
想定する用途としては、新薬開発、金融の資産配分、物流最適化などを挙げる。いずれも膨大な組み合わせの中から最適解を導く「組合せ最適化」の典型的な領域で、計算量が膨らみやすい。たとえば新薬開発では、多数の化合物の組み合わせから有望な候補を絞り込む必要があり、計算回数の削減が開発時間やコストの圧縮につながるとしている。
今後は、問題の種類ごとに有効性を検証し、残る課題を洗い出した上で、1〜2年以内の実用化を進める方針だ。
一方、量子技術の進展を巡っては、暗号資産市場でも警戒感が強まっている。Googleは最近公表したホワイトペーパーで、一定水準の量子コンピュータがビットコインの楕円曲線暗号(ECC-256)を数分で解読する可能性に言及し、2029年を耐量子暗号への移行準備の目安として提案した。
もっとも、業界ではビットコインの量子リスクは技術面だけの問題ではないとの見方もある。Grayscale Investmentsは、量子対応にプロトコル変更が必要になった場合、技術実装そのものよりもコミュニティーでの合意形成が大きな障害になり得ると分析している。