地球磁場の観測体制が弱まれば、航空機やドローンの方位精度に影響する可能性がある。写真=Shutterstock

電子コンパスの基準となる世界磁気モデル(WMM)の精度低下が、航空機やドローンの航法に影響を及ぼす可能性が浮上している。地球磁場の変化が加速する一方、観測インフラには制約があり、米政府は次世代の磁場センシング技術の発掘を進めている。英TechRadarが今月4日(現地時間)に報じた。

焦点となっているのは、世界磁気モデル(World Magnetic Model、WMM)だ。WMMは、スマートフォンやスマートウォッチをはじめとする各種電子機器のコンパス機能で基準として使われている。カナダの量子センシング企業SBQuantumの創業者、デイビッド・ロイーゲイ氏は、「WMMは実質的にほぼすべての電子コンパスを支えている」と説明する。GPSが位置情報を担うのに対し、WMMに基づくコンパスは方位を示し、地図アプリの進行方向表示などを可能にしている。

問題は、地球磁場が常に変化していることだ。北磁極は毎年移動しており、それに伴ってWMMの有効期間も短くなっている。通常は5年ごとに更新されてきたが、磁場変化の加速によって4年で改定されたこともある。モデルが実際の磁場を十分に反映できなくなれば、方位誤差が積み上がる恐れがある。

リスクを高めているのが観測インフラの制約だ。特に、欧州宇宙機関(ESA)の地球磁場観測ミッション「Swarm」が終了した場合、既存データの信頼性が大きく低下するとの懸念がある。ロイーゲイ氏は「現在の地図は2〜3年以内に実用性を失う可能性がある」と警告し、航空機やドローンの航法システムに大きなずれが生じる恐れを指摘した。極地では方位誤差が数十度に達する可能性もあるという。米アラスカ州では、磁場の変化に伴って空港の滑走路番号が変更された例もある。

こうした課題を受け、米政府も対応を進めている。米国家地理空間情報局(NGA)は2019年に「MagQuest Challenge」を開始し、次世代の磁場センシング技術の発掘に乗り出した。従来の断続的なデータ収集から、リアルタイムに近い連続観測体制への移行を目指している。

その中で注目されるのがSBQuantumだ。同社は量子物理に基づく「ダイヤモンド磁力計」を開発しており、高感度で磁場を測定できる小型センサーの実用化を目指している。この技術は宇宙空間のプラットフォーム「Diamond Polaris-1」で試験が進められており、将来的には地球磁場を継続的に監視する基盤になることが期待されている。

収集したデータは、米海洋大気庁(NOAA)とNGAが分析し、今後のWMM改定に反映する計画だ。SBQuantumは、データ品質はまだ初期段階にあるとしながらも、コンパス用途には活用可能な水準にあると説明している。今後、さまざまな高度に衛星やドローンを展開できれば、より高精度な磁場マップの構築が可能になり、慣性航法装置(INS)の補正や、GPSを使わずに最大100メートル級の測位精度の実現につながる可能性があるとしている。

もっとも、技術はなお初期段階にある。センサーの小型化や商用化には時間が必要で、同社は約3年以内にマッチ箱サイズまで縮小することを目標に掲げている。

専門家の間では、地球磁場の変化と観測の空白が重なれば、スマートフォンの方位表示のずれにとどまらず、航空機やドローンの航法全般に影響が及ぶとの見方が出ている。高精度かつ継続的な磁場観測体制の構築が、今後の航法技術における重要課題となりそうだ。

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