「エージェントごとに役割を与え、必要な背景知識やスキルを持たせて連携させる。いまは個人でも、AIエージェントのチームを運用する時代になった」
板橋の大手IT企業に勤める、キャリア17年の開発者ファン・ミンホ氏は、こう語る。AIを積極的に業務へ取り入れ、最新技術を自ら試したうえで、成果物をSNSや開発者コミュニティで継続的に発信している。
代表例として挙げられるのが、AIエージェントの活用シナリオ100本をまとめた「Hanes 100」や、公開から数日でGitHubのスター700件を集めた「Claude Code」のガイドブックだ。SFのWeb小説を執筆したあとWebtoon化したり、絵文字で絵を描くツールを即席で作ったりと、個人制作の幅も広い。政府がMarkdown形式の導入を発表した直後には、韓国語文書の変換ツールも公開した。
キャリアの出発点は検索サービスだった。これまで15年間にわたり、広告、検索、オープンソースなど幅広い分野を担当してきた。ChatGPTが登場した際には「面白い友達だと思った」という。検索と同じ方向の進化だと捉えたためだ。
ファン氏は「AIも結局は、必要なものを素早く見つけるところから始まった。検索と目指す方向は同じだった」と振り返る。
試行錯誤の結果を社内コミュニティへ投稿し始めると、社内外で反響が広がった。もともと海外トレンドを調べて共有する習慣があり、それが自然にAI分野へつながったという。その後はAIソリューションやサービス開発にも携わり、AIネイティブ組織で全社のAX支援を担うきっかけにもなった。
現在はFDE(Forward Deployed Engineer)として複数の組織を回り、現場でのAI活用を支援している。
開発の進め方は大きく変わった。ファン氏によると、ChatGPT登場前は3カ月規模だったプロジェクトが、ChatGPTの活用で1カ月に短縮され、さらにCursorやClaude Codeのようなツールの登場で2週間まで圧縮された。現在はハーネスエンジニアリングを取り入れ、「MVPなら1時間で作り、公開まで2日で持っていける」と話す。
非開発職との協業の形も変わりつつある。1時間の会議の最中に、アイデアをその場で反映した試作品を提示することもあるという。
ファン氏は「担当者が課題を説明している間、ノートPCで複数のAIエージェントを同時に動かしている。会議の終盤に画面を見せて『おっしゃっていたのは、こういうシステムですか』と確認すると、かなり驚かれる」と語った。
個人での情報発信も例外ではない。海外のAIトレンド記事を1本書くのに、以前は翻訳を含めて2時間かかっていたが、いまは1時間程度に短縮された。最近では、良いリンクが見つかれば自分の意見を添えて10分ほどで公開できるという。
こうした効率化の中核にあるのが、ハーネスエンジニアリングだ。複数のエージェントにペルソナを与え、背景知識とスキルを組み合わせて動かす方法論で、Anthropicが昨年11月のブログで概念を紹介した。
ファン氏はこれを不動産契約にたとえて説明する。「ChatGPT以前は、自分で不動産の知識を調べてから現地に行っていた。CursorやClaude Codeが出てからは、AIを隣に置いて一緒に進めるようになった。ハーネスエンジニアリングの段階では、私の代わりに不動産会社へ行き、契約までこなすエージェントを作るイメージだ」
ハーネスを構成する要素は3つあるという。第1に、人の代わりに働くエージェント。第2に、エージェントが使う知識や方法論としてのスキル。第3に、エージェント同士の連携手順やルールを定めるオーケストレーションだ。ファン氏はこの方法論を100のシナリオで検証し、Claude Codeのプラグインとして公開した。
公開前には迷いもあったという。「一つひとつがスタートアップのような感覚だった」と振り返る。
具体例として挙げたのが、SFのWeb小説執筆ハーネスだ。「SF小説を書く」という1行の指示だけで、キャラクター設計、世界観構築、科学監修を担う各エージェントが自動生成される。エージェントはまず章立てのアウトラインと伏線を設計し、その後に執筆へ入った。
完成した小説はWebtoonにも展開した。12話分の制作で生成した画像は360枚に上る。このうち40枚はレビュー用エージェントが基準未達と判断して自動で描き直し、20枚はファン氏が直接手を入れたという。ファン氏は「こちらが指示していない部分まで見てくれる」と話した。
一方で、AIエージェントを使いこなす力は、単純なコーディング能力とは別だとも強調する。「開発者のほうが得意だと思われがちだが、実際には企画担当者やチームリーダーのほうがうまいことも多い。人に仕事を任せてきた人ほど、エージェントへの指示も上手だ」という。
さらに「開発者はエージェントに1行だけ書くことがあるが、うまい人は5〜6行を続けて書く。そこには自分の考えや悩みが溶け込んでいる」と付け加えた。
開発者の雇用不安については、「AIを代替の脅威として見るのではなく、最大限活用して自分の能力を引き上げる経験を積むことが重要だ」との見方を示した。ジュニアには機会となり、シニアには惰性を断ち切るきっかけになるという。
そのうえでファン氏は「変化を受け入れ、古い働き方のスイッチを切れる人が有利になる」と語った。