MegaZoneCloudのヨム・ドンフン代表は2日、企業でAI活用を定着させるための条件として、「トラストレイヤー」と「チェンジマネジメント」の2点を挙げた。あわせて、クラウドベースのAIコンピュータを全従業員が利用する時代を次のビジョンとして示した。
ヨム代表は、MegaZoneCloudがグローバルパートナーと開催したカンファレンス「ICON2026」の基調講演で、「エンタープライズ市場では、技術だけでは不十分だ」と指摘した。信頼できる利用環境の整備と、組織としてAI活用を促進・管理する取り組みがかみ合って初めて、企業でAIが本格的に広がるとの見方を示した。
新技術が主流になる前提条件としては、コストと導入環境を挙げた。「優れた技術でも大衆化に失敗した例は多い。メタバースはコロナ禍で世界を変える技術のように登場したが、急速に存在感を失った。Apple Vision Proも技術力は高く評価されたが、価格の壁を越えられなかった」と述べた。
そのうえで、「AIも、優れた技術を企業が実際に使える環境が整っているのかという問いに答えられなければ広がらない」と語った。
一方で、現実にはなお高い壁があるという。ヨム代表はマッキンゼーの調査を引用し、AIによって大きな価値を生み出している企業は全体の7%にとどまり、残る93%は依然として「エンタープライズAIキャズム」を越えられていないと指摘した。
課題の一つとして挙げたのが、従業員がどのAIをどのように使っているのかを企業側が十分に把握・管理できていない点だ。
MegaZoneCloudが最近、企業関係者約600人を対象に実施した調査では、86%が会社の承認を得ていないAIサービスを利用していると回答した。クラウド導入初期に広がった「シャドーIT」と同じ現象が、AIの領域でも起きているという。
ヨム代表は、「企業の承認を得ずに個人のカードでクラウドを決済して使っていた行動が、いまはAIで繰り返されている」と説明。「この状況を放置すれば問題が生じる。未承認の生成AIサービスを通じて情報漏えいが起きれば、企業は全面遮断という極端な対応を迫られかねない」と警鐘を鳴らした。
その結果として、「本来活用できるはずの優れた技術まで使えなくなり、競争力の低下が続く悪循環に陥る」との懸念も示した。
こうした状況を踏まえ、ヨム代表は、トラストレイヤーとチェンジマネジメントが伴わなければ、エンタープライズ市場でAIは実証段階から抜け出しにくいと強調した。
同氏によると、トラストレイヤーの中核となる要素は、ガバナンス、セキュリティ、コンプライアンスの3つだ。
ガバナンスは、AI利用のルールを定義することを指す。例えば、マーケティング部門が財務情報をAIで分析できるか、カスタマーサービスのAIエージェントに注文取消の権限を持たせるべきか、といった判断が含まれる。
セキュリティは、定めたルールを技術的に強制する仕組みで、AIエージェントが許可された範囲内でのみ動作することを担保するものだ。コンプライアンスについては、政府の法令や規制を順守しているかを確認する仕組みと位置付けた。
ヨム代表は、「Google Gemini Enterprise、Amazon Q、Microsoft Copilot、OpenAI ChatGPT Enterpriseなど多様なAIサービスを企業が安全に使うには、トラストレイヤーの整備が欠かせない」と述べた。MegaZoneCloudは今回、AIの構築、実行、統制までを統合管理できるよう設計したエンタープライズAI OS「AIR Studio V2」も発表した。
また、企業でAI活用を広げるには、技術基盤の整備だけでは限界があるとも指摘した。自社の事例として、「昨年、従業員向けにGeminiのライセンスを導入したが、1カ月後に確認すると、ほとんど使われていなかった」と明らかにした。
その後、6カ月にわたって体系的なチェンジマネジメントプログラムを運用した結果、従業員の60%が毎日Geminiを使うようになったという。「チェンジマネジメントなしにAI導入を成功させるのは難しい。なぜ使うべきかを理解し、どう使うかを適切に訓練してこそ、投資は成果につながる」と語った。
さらに、エージェンティックAIについては、テクノロジーパラダイムにおける次のビジョンを主導し得る潜在力があるとの見方を示した。
ヨム代表は、「ビル・ゲイツが『すべての机と家庭にコンピュータを』というビジョンを示し、スティーブ・ジョブズが『すべての人のポケットにコンピュータを』というビジョンでスマートフォン時代を開いたように、いまは次のビジョンが必要だ」と述べた。そのうえで、「クラウドベースのAIコンピュータをすべての従業員に」という方向性を提示し、「実現するかどうかは今後見極める必要があるが、現在の流れはその方向に向かっている」と話した。