写真=Bespin Globalが3月31日に開催した「AI Partners Day 2026」の会場

Bespin Globalの最高AI責任者(CAIO)を務めるハン・ソンホ副社長は3月31日、同社が開いた「AI Partners Day 2026」の基調講演で、企業のAI投資が成果に結びつきにくい主因として、技術偏重、データの複雑さの軽視、作り手目線の設計の3点を挙げた。AIは技術導入の問題ではなく経営課題として捉えるべきだとし、課題定義を先行させたうえで、適切なデータ構造を設計し、小さく始めて段階的に拡張する重要性を強調した。

ハン副社長は、多くの企業が「技術を先に導入し、課題は後から探す」進め方に陥っていると指摘した。市場で話題の技術を押さえなければ取り残されるという不安が、こうした導入を後押ししているという。

その例として挙げたのが、自然言語の質問に対しAIがデータベースからリアルタイムで情報を取得する「Text-to-SQL」だ。ハン副社長は、社員がIT部門に依頼しなくても必要なデータを2〜5分で取得でき、従来は最短でも1週間、長ければ2週間かかっていた作業を大幅に短縮できると説明し、「技術としては非常に強力だ」と評価した。

一方で、実運用では精度面の制約が残るとした。ユーザー意図の把握が95%、データ検索が95%、SQL生成が90%、回答生成が99%だったとしても、各工程の精度は掛け合わせられるため、最終的な精度は80%程度まで低下するという。

ハン副社長は「リーダーボード首位のモデルでも、特定環境では95.8%を記録する一方、実際の韓国企業の環境では65.8%にとどまる。現場で使うには90%を超える水準が必要で、本当に必要な場面を見極めて使うべきだ」と述べた。

そのうえで、AI導入では課題の定義を先に行い、その後に技術を選定すべきだと訴えた。「その課題が事業に実質的な影響を与えるのかをまず見極めるべきだ。そのうえで、解決に最も費用対効果の高い技術を選ぶ。順序が逆になれば、コストばかりかかって効果の出ないシステムになりかねない」と語った。

データの複雑さも、企業がAIプロジェクトで見落としやすい論点だという。データをAIが扱える形に整形し、テキストを一定単位に分割してベクターデータベースを構築すれば終わり、という発想は現実的ではないと指摘した。

ハン副社長は「ベクターデータベースは、非構造データを多次元空間で表現し、確率ベースで近い答えを探す技術だ。有用ではあるが、絶対的な正解を保証するものではなく、構造的な限界もある」と説明した。

具体的な課題としては、(1)多次元の関係性や階層構造を扱いにくい(2)構造化データと非構造化データを同時に処理しにくい(3)ドメイン固有の用語がチャンク単位で衝突すると、AIが誤情報を生成するハルシネーションが起こりやすい(4)複合的な推論に弱い――の4点を挙げた。

こうした弱点を補う手法として、グラフデータベースとオントロジーを活用したアプローチも紹介した。保険会社の事例では、ベクター方式に比べてグラフ方式の方が、商品、特約、疾病の関係を構造的に結び付けたうえで、LLMに正確な情報だけを渡せたという。製造現場でも、供給関連データをドメイン特化型のオントロジーで構築した企業が、段階的なフィードバックを通じて実効性を高めたとした。

ハン副社長は「データは多ければよいわけではない。重要なのは構造が業務に合っているかどうかだ」と述べた。

さらに、成果を阻む要因として「作り手目線の設計」も挙げた。実際に使う現場ではなく、開発側の発想でシステムを設計してしまうケースが少なくないという。「技術的に見栄えがよく、デモでうまく動き、経営陣の発表で拍手を集めても、現場で使われなければ意味がない」と語った。

例として示した物流企業では、機械学習モデルを軸に複数のソリューションを連携させ、倉庫管理システムを高度化した。経営陣は成功を見込んでいたが、顧客に荷物が届く最後の1kmで顧客体験が損なわれたという。

ハン副社長は「顧客は希望する時間に受け取り、リアルタイムで配送状況を確認したかったが、システムはそこを設計していなかった。提供側の効率ばかりを見て、顧客の痛点を見ていなかった」と指摘した。

また、「問題に見えているものの多くは、実際には現象にすぎない。頭が痛いから鎮痛剤を飲むのではなく、なぜ痛むのかを掘り下げる必要がある」とも述べた。管理職が集まってユースケースを10件挙げ、3件に絞って始める場合でも、現場の実際の課題から出発しなければ成果にはつながらないとした。

最後にハン副社長は、「時間をかけるべきなのは、正しい課題を見つけることだ。目の前の症状ではなく根本原因を探り、事業インパクトの大きい領域から着手すべきだ。ビッグバン型ではなく、小さく始めて実データで検証し、段階的に広げる必要がある。AIエージェントを作る時間より、診断とモニタリングにかける時間の方が重要だ」と締めくくった。

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