AIがSaaS市場を大きく揺るがすとの見方が広がる中、LinkedIn創業者のリード・ホフマン氏が、AI時代のSaaSを巡る見解をXで示した。プロンプトを数行入力するだけで業務向けSaaSを簡単に作れるとの見方には否定的な一方で、AIによって参入障壁が下がり、競争環境が変わりつつある点は認めた。
いわゆる「SaaSpocalypse」を巡っては、AIが既存のSaaS企業を不要にするとの議論がある。これに対しホフマン氏は、HRシステムや売掛金管理プラットフォーム、企業向けCRMを「プロンプトだけで簡単に作れる」と考えるのは現実的ではないと投稿した。
同氏は、仮にコード生成で給与システムを構築できたとしても、それで終わりではないと指摘する。ソフトウェアは単なるコードの集合ではなく、保守、検証、セキュリティ、コンプライアンス、継続的な改善が欠かせない「生きたシステム」だと説明した。
そのうえで、既存のSaaSモデルが揺らぐことと、ソフトウェアを販売する企業そのものがなくなることは別問題だと強調した。
一方で、AIがSaaSの事業構造に変化をもたらしている点については認めている。SaaS企業にとって、従来と同じやり方では収益を確保しにくくなる可能性が高いというのが同氏の見立てだ。
ホフマン氏は、従来型のSaaSモデルがそのまま維持されにくくなっているとの見方は正しいとした。これまでは、顧客要件を満たす製品が限られていたうえ、高い安定性を武器に高収益を確保しやすかったと振り返った。
ただ、現在はAIの普及によって、開発人材の確保という参入障壁が低下していると指摘した。SaaS企業を守ってきた競争優位は、以前よりも薄れつつあるという。
では、AI時代のSaaS企業にとって新たな競争力の源泉はどこにあるのか。ホフマン氏は、ソフトウェアが競争力を維持するには、AIを中核機能として取り込むことが不可欠だとの考えを示した。
同氏は「新たな競争優位は、それぞれの領域でAIをどこまで精緻に組み込めるかによって生まれる」と説明する。
具体例として、営業プロセスを自律的に改善し、人間のアナリスト以上に商談パイプラインを深く理解し、領域特化の強力なバックエンドライブラリを備えたCRMエージェントを挙げた。こうした仕組みを構築できる企業は、強固な競争優位を確立できるとし、その変化を理解した既存の有力企業は生き残るとの見方を示した。
逆に、対応できない企業は淘汰されるとしつつも、そのペースは多くの人が想像するより緩やかになるとの見通しも示した。
さらにホフマン氏は、AIによってソフトウェア市場そのものが拡大する可能性にも言及した。オンプレミスからクラウドSaaSへの移行でも市場は縮小せず、むしろ拡大したと指摘。クラウドからAIネイティブへの転換でも同様のことが起こり得るとした。
その背景として、ジェボンズのパラドックスが引き続き働くとの認識を示した。ソフトウェア開発コストが大きく下がれば、需要はむしろ急増するという見方だ。
収益モデルについては、変化が避けられないとしたうえで、「電気料金のように、あらかじめトークン予算をチャージして利用する方式」が広がる可能性に触れた。CRM企業が、コンピューティング使用量や利用規模を基準に課金体系を再設計するシナリオも例示した。
もっとも、AI時代になっても従来の優位性がすべて失われるわけではない。ホフマン氏は、ネットワーク効果、顧客基盤、データ優位といった伝統的な強みは、今後もSaaS市場で重要性を保つとみている。
同氏は、AIが企業固有のデータを実際に活用できるようになることで、希少なデータの価値はむしろ高まると指摘した。AIシステムが数年分の業務フローを学習した企業ほど、顧客の囲い込み効果をより強められるとの見方を示した。