代表的な安全資産とされてきた金の値動きに異変が起きている。2月28日の米・イラン戦争勃発後、金価格は3月27日時点で1オンス=4500ドルまで下落し、約15%下げた。地政学リスクの高まりを受けて買われるという、これまでの「有事の金」のパターンとは異なる展開だ。
実際、1990年の湾岸戦争では金価格が約13%上昇し、2022年のロシア・ウクライナ戦争の初期にも約10%上げた。今回の下落は、過去の有事局面と対照的な動きといえる。
米投資リサーチ会社Morningstarは23日(現地時間)に公表した分析で、足元の金安について、いわゆる「オイルショックの逆説」で説明できると指摘した。
イランによるホルムズ海峡封鎖を受けて国際原油価格が急騰し、インフレ懸念が拡大。これが米連邦準備制度理事会(FRB)の引き締め姿勢強化観測につながったという見方だ。
利上げ観測が強まれば実質利回りは上昇し、ドル高も進みやすい。利息を生まない金の相対的な魅力が低下し、売り圧力につながる構図だ。
加えて、前年に金価格が約65%急騰していた反動もある。市場では、一部ヘッジファンドがマージンコールへの対応で含み益の大きい金を優先的に売却し、短期的な供給増につながったとの見方も出ている。
■ビットコインは相対的に底堅く推移 「デジタル安全資産」論も
現物の金が大きく下げる一方、「デジタルゴールド」と呼ばれるビットコインは相対的に底堅さを保っている。
開戦直後は世界の金融市場でリスク回避姿勢が強まり、ビットコインも一時下押しされた。ただ、下落幅は限定的だった。
3月中旬には一時7万3000ドル台まで戻し、足元では6万ドル台後半~7万ドル台前半で推移している。国際原油が再び1バレル=100ドルを上回る局面でも、比較的安定した値動きを維持している点が注目されている。
こうした底堅さの背景として、ビットコインの構造的な特性を挙げる声もある。発行上限は2100万枚に制限されており、年間の供給増加率も金を下回るとされる。
また、個人が秘密鍵を自ら管理する場合、国家や機関による物理的な差し押さえや没収を受けにくいとの見方もある。このため、地政学リスクが高まる局面では代替資産としての魅力が増すとの指摘が出ている。
24時間、グローバルネットワーク上で売買できる点も、金融インフラが不安定な局面では強みとして意識されやすい。
もっとも、イランが米国の終戦交渉案を拒否し、戦争が長期化の様相を強める中、ビットコインの先行きについては見方が割れている。デューク大学フクア経営大学院のキャンベル・ハービー教授は、ビットコインは実物資産の裏付けを持たないため、伝統的な安全資産である金の代替にはなりにくいと指摘。長期的には金価格が上昇するとの見通しを示した。
■「デジタルゴールド」か高リスク資産か 市場の見方は分かれる
Bloomberg Intelligenceのマイク・マクグローン上級ストラテジストは、インフレ後のデフレ転換と流動性の引き締まりを理由に、ビットコインが1万ドル(約150万円)まで急落する可能性があると警告した。暗号資産アナリストのダンも、「ビットコインは6万ドルで反発したが、中長期の下落トレンドから上昇トレンドに転じたことを示す明確な証拠は乏しい」との見方を示した。
一方で、地政学リスクの長期化がビットコインに追い風となる可能性を指摘する声もある。
マクロ戦略家のマーク・コナーズ氏は「戦争が長引くほど各国の財政赤字は膨らみ、ドルの価値低下を通じてビットコインにプラスに働く」と主張した。JPモルガンも最近のリポートで、ビットコインは地政学危機の局面でも金や銀より安定した値動きを示したと評価した。
Bernsteinのクオンタム・チュガニ氏も、ビットコインは調整局面を終え、上昇基調に転じるとの見通しを示している。
戦争の長期化は、インフレ圧力と金融引き締め観測の双方を通じて、金融市場全体の重荷となる可能性が高い。伝統的な安全資産としての金の位置付けが揺らぐ中、ビットコインがその代替となるかどうかについて、市場の判断はなお定まっていない。
足元の反発が一時的な戻りにとどまるのか、それともデジタル安全資産としての評価を高める転機となるのか。今後のマクロ環境の変化が、その行方を左右しそうだ。