写真=CERN

欧州原子核研究機構(CERN)は、反陽子をトラックで輸送することに世界で初めて成功した。移動型反物質保存装置「BASE-STEP」を使い、高真空と極低温の環境を保ったまま搬送した。反物質研究の対象を固定施設から広げる技術として注目される。

CERNによると、BASE実験チームは陽子の反粒子である反陽子92個を別の地点へ運んだ。反物質を保存装置に収容したまま別地点へ直接搬送したのは初めてという。輸送距離は8km超で、所要時間は約30分。トラックの最高速度は時速42kmだった。

今回の中核となったのが、移動型反物質保存装置「BASE-STEP」だ。超伝導磁石、極低温冷却システム、真空チャンバーを一体化し、反陽子を電場と磁場で閉じ込めたまま安定して保存・輸送できるよう設計した。

装置の重量は約1トン。ただ、トラックへの搭載や実験室への搬入出が可能な大きさに収め、走行中の振動にも耐えられる仕様とした。

反物質は通常の物質に触れると直ちに消滅する。このため輸送中も高真空と極低温の維持が不可欠となる。BASE-STEPは、こうした条件を満たしながら移動を可能にした点に技術的な意義がある。

背景には、より安定した精密測定環境の必要性がある。CERN内の反物質生成施設では微小な磁場変動が生じ、高精度実験には制約があった。研究チームは、より安定した環境で反陽子の磁気モーメントを測定するため、施設外への移送を試みた。

BASE実験チームは、反陽子の性質を精密に調べることで、宇宙で物質だけが残り、反物質が消えた理由の解明を目指している。反物質は物質とほぼ同じ性質を持ちながら、電荷などが逆の粒子を指す。CERNによると、人工的に生成した反物質を研究できる施設は現時点で同機構のみという。

今後は、CERN内の別棟への輸送などに対象範囲を広げ、装置間で反陽子を移す実験も進める計画だ。2029年には、約700km離れたドイツの研究所まで輸送する目標も掲げる。トラックに発電機を搭載し、約8.2K以下の極低温を維持する案も検討している。

CERNは今回の成果について、反物質研究の新たな転換点になると位置付けている。移動型の反物質輸送技術が確立されれば、これまで特定施設に限られていた研究を広げられる可能性があり、宇宙の物質・反物質非対称の解明にもつながるとしている。

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