映画「Project Hail Mary」の公開を受け、地球外生命体との意思疎通は現実に成り立つのかという点に改めて関心が集まっている。作中では地球人のグレースと地球外生命体「ロッキー」が短期間で意思疎通の手段を築いていくが、実際にはその過程ははるかに複雑だと、Ars Technicaが20日(現地時間)に報じた。
言語学者のベティ・バーナー博士は、コミュニケーションは単なる単語の交換ではなく、互いの認知や文化的文脈を理解していく過程だと指摘する。例えば、人間が「上」を肯定的に、「下」を否定的に捉えるような概念が、地球外生命体にもそのまま当てはまるとは限らないという。
映画でグレースとロッキーが「友人」という概念をすばやく共有する描写についても、現実にはそう簡単ではないとの見方を示した。バーナー博士は「私たちは同じ言語を話す相手とでさえ、完全に分かり合えるわけではない」としたうえで、地球外生命体との意思疎通はさらに複雑になると説明した。
SF映画では物語を展開しやすくするため、言語習得の複雑なプロセスが単純化される傾向がある。一方、言語学の観点では、重要なのは単語の置き換えではなく、思考の枠組みそのものをどこまで共有できるかにある。こうした点は、映画では大きく簡略化されているという。
バーナー博士は、言語は単なる記号の体系ではなく、感情や社会規範、文化的背景が絡み合う複雑なシステムだと強調する。そのため、地球外生命体とのコミュニケーションを可能にするには、言語を超えて相手の思考体系を理解するプロセスが欠かせないとしている。
「Project Hail Mary」はSFとしての想像力をかき立てる一方で、現実の異星間コミュニケーションの難しさも浮き彫りにする作品といえそうだ。言語とは記号のやり取りにとどまらず、人類の文化や認知の特性を映し出す複合的な仕組みだからだ。