NetflixがBTSのカムバック公演を世界同時ライブ配信し、音楽ライブ配信市場に本格参入する。グローバルOTTがK-POPの大型公演中継に乗り出すことで、広告規制の下で収益基盤の弱体化が続く韓国放送局には危機感が広がっている。
Netflixは3月21日午後8時、ソウル・光化門広場で開催される「BTS COMEBACK LIVE ARIRANG(ARIRANG)」を約190カ国で生配信する。Netflixが韓国から世界向けに配信する初のライブイベントで、音楽公演の生中継も初めてとなる。
Netflixのノンフィクションシリーズ・スポーツ部門バイスプレジデント、ブランデン・リグ氏は20日、ソウル・光化門のシネキューブで開かれた事前メディアブリーフィングで、「NetflixはこれまでKドラマや韓国映画を通じて韓国文化の広がりに貢献してきた。今回のBTSライブは、その流れがK-POPへと広がる文化的イベントだ」と語った。
その上で、「この規模のポップカルチャーイベントはNetflixで見るものだ、という体験を届けたい」と強調した。
同氏は、これまで蓄積してきたスポーツ中継のノウハウを音楽公演にも展開する考えを示した。Netflixは昨年、200回超のライブイベントを配信した。2024年の米ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)クリスマスゲームでは、2750万人が視聴したという。
今年1月には、クライマーのアレックス・ホノルド氏が台湾の超高層ビル「台北101」を素手で登る様子をリアルタイムで配信した。地上500メートルの高層建築物の外壁という過酷な環境でも、途切れなく中継できたとしている。
リグ氏は「今の時代はエンターテインメントの選択肢が多すぎる。世界中の人々を同時につなげる単一のイベントは、ますます少なくなっている」と述べ、今回の戦略の背景を説明した。
今回の公演は規模の面でも、今年のNetflixのライブ配信で最大になる見通しだ。これまで最大級のライブ配信だったジェイク・ポール氏とマイク・タイソン氏のボクシング試合には、総額6000万ドル(約90億円)の予算が投じられたと伝えられている。
Netflixは今回の制作費を公表していない。ただ、23台のカメラを1.6キロ区間に配置し、放送機材は計16万4500キログラムを投入する。スタッフは10カ国出身で、グローバル体制で制作に当たる。
総合演出は、スーパーボウルのハーフタイムショーや2012年ロンドン五輪開会式を手掛けた演出家のヘイミッシュ・ハミルトン氏が務める。
リグ氏は「今年Netflixで実施するライブイベントの中で最大の案件になる」とした上で、「ソウル都心のど真ん中でこの規模のイベントを実施し、現地の観客と世界の視聴者双方の期待に応えることが課題だ」と述べた。
一方で、「これまで積み上げてきたライブ配信の専門性がある。過去のイベント同様、円滑に進められると確信している」とも語った。
NetflixはBTSを皮切りに、ほかのK-POPアーティストの公演も生中継する可能性を示した。リグ氏は「韓国の制作陣とのパートナーシップの下で、ほかにも多くのライブイベントの機会がある。現時点で詳しくは話せないが、進行中の案件がある」と明らかにした。
米国やブラジルなど主要地域では、ファンが一つの空間に集まって一緒に視聴するウォッチパーティーもあわせて開催する。
影響が懸念されるのは韓国放送局だ。地上波やケーブルテレビは、年末の歌謡授賞式や大型公演の生中継を通じて、ライブ中継の競争力と広告収益を維持してきた。そこにグローバルOTTがK-POPの生中継市場へ参入し、警戒感が高まっている。
実際、放送局の広告売上高は減少傾向にある。放送通信委員会が公表した「2024会計年度 放送事業者財産状況」によると、昨年の放送事業全体の売上高は前年比0.9%減の18兆8042億ウォンだった。
IPTVを除く全分野で売上高が減少し、地上波の落ち込みが最も大きかった。地上波の広告売上高は前年比9.9%減の8354億ウォンで、2015年の1兆9112億ウォンの半分にも届かなかった。
業界では、海外OTTとの規制格差を構造的な要因として挙げる。地上波は放送法第73条と同施行令により、広告編成が総放送時間の15%以内に制限されており、広告収益には構造的に上限が設けられている。
一方、Netflixは電気通信事業法上の付加通信事業者に当たり、放送法の規制対象ではない。収益構造や制作費の執行に制約が少なく、大型公演の生中継に必要な投資余力で差が生じているとの指摘が出ている。
放送業界関係者は「地上波がK-POP授賞式や大型公演の中継を確保できたのは、事実上ほかに有力な選択肢がなかったからだ」とした上で、「Netflixが芸能事務所と直接契約する構図が定着すれば、ドラマやバラエティーと同様、韓国放送局の交渉力は低下するだろう」と話した。
一方、芸能事務所側の評価はNetflixに傾いている。HYBE Music Groupのアジア太平洋(APAC)代表、ユ・ドンジュ氏は「韓国で最も象徴的な場所で、ファンダムと一般大衆、韓国人と外国人が一緒に公演を楽しむ体験は、文化的にも非常に希少だ」と述べた。
その上で、「その体験をグローバルに広げるうえで、Netflixが最も適したパートナーだと判断した」と説明した。