Dropboxが、建設・エンジニアリング分野を中心とするAEC市場の開拓を強化している。AI活用の前提としてクラウド移行が欠かせないと訴え、大容量データの同期性能やセキュリティ、長期の復元対応を武器に、オンプレミス依存の強い市場での拡大を狙う。
Dropboxのシン・ジェヨン韓国・ベトナム事業統括は18日、DigitalTodayの取材に対し、「AEC企業がAIを活用するには、まずオンプレミスに蓄積されたデータをクラウドへ移す必要がある」と述べた。プロジェクトデータの増大に加え、ランサムウェアの脅威や分散勤務の拡大を背景に、クラウドベースのデータ管理需要が高まっているという。
Dropboxは、AEC分野の業務特性が同社の強みと合致するとみている。ユキ・カミAPJテクニカルソリューション統括は、「この分野では設計図面や動画、3Dスキャンデータなどの大容量ファイルを扱う。時間や場所を問わず現場が動き続けるため、リアルタイムでのデータ共有と整理が重要になる」と説明した。
シン統括は、「設計、原価、品質・安全に関する情報は、この業界では事業基盤そのものだ。データに問題が生じればプロジェクトの停滞に直結するため、安全な保管と迅速な復旧へのニーズは大きい」と述べた。そのうえで、使い勝手や処理速度、セキュリティの面で評価を得ているとした。
技術面では、変更部分だけを同期する仕組みを差別化要因として打ち出す。ファイルを4MB単位で分割して扱うため、例えば100MBのファイルを修正した場合でも、変更があった部分のみを再送すればよく、転送負荷を抑えながら共同作業のスピードを高められるという。
シン統括は、「他社クラウドではファイル全体を再同期するケースが多いが、Dropboxは変更箇所だけを処理する。20年間にわたって蓄積してきた同期技術だ」と強調した。
こうした仕組みは、通信帯域が限られる建設現場でも有効だとしている。ネットワークが不安定な環境では、サーバを介さず端末同士を直接接続するP2P方式でファイルをやり取りできるほか、動画ファイルも全体をダウンロードする前にストリーミングで内容を確認できる。
カミ統括は、「データを細かい単位で扱えるため、厳しい通信環境でもファイル共有の安定性を確保しやすい」と話した。
セキュリティ面では、削除ファイルの保持期間や復元対応の長さも訴求する。ユーザー環境で削除されたファイルについて、Advancedプランでは1年間保持し、拡張版バージョン履歴(EVH)オプションを追加すれば、最長10年まで保存できるという。
カミ統括は、「他社では90〜100日程度のケースが多いが、ランサムウェアの高度化に伴い、その期間が過ぎるのを待って攻撃が有効化される事例も報告されている」と指摘した。あわせて、「削除ファイルの保持やバージョン履歴は、購入したストレージ容量とは別枠で提供される」と説明した。
韓国のAEC市場については、成長余地が大きいとの見方を示した。シン統括は、「韓国は日本やオーストラリアに比べてクラウド導入が遅れており、伝統産業に根強いクラウドへの抵抗感や、オンプレミス運用から抜け出しにくい構造が依然として障害になっている」と語った。一方で、「政府主導でAI転換の機運が高まっており、企業側も必要性を認識し始め、問い合わせが増えている」とした。
カミ統括は、「デジタル化を後押しする要因は地域ごとに異なる」とし、「東アジアでは、数十年前に整備された建築資産を次世代にどう継承するかが課題となり、そこからデジタルトランスフォーメーションの議論が本格化している」と述べた。
Dropboxは、AI検索ツール「Dash for Business」との連携効果にも期待を寄せる。Dropbox内のデータだけでなく、Google WorkspaceやMicrosoft 365など外部ツールとも連携し、自然言語による横断検索が可能だという。
シン統括は、「例えば、昨年屋外で撮影した現場写真やドローン映像を自然言語で検索できる。どのフォルダ、どのプロジェクトを開けばよいか迷う時間が減り、生産性向上につながる」と説明した。
実際の導入事例として、シン統括はニュージーランドの建設会社Southbase Constructionを挙げた。同社では従業員の85%が現場に分散しており、Dropbox、Microsoft OneDrive、Google Cloudにファイルが分散していたため、安全・品質管理報告書の作成に従来は4〜5時間を要していたという。
Dash導入後は、作業時間が30分〜1時間に短縮されたとする。シン統括は、「報告書を受け取った顧客企業からは、人手で作成したものより品質が高いとのフィードバックもあった」と明らかにした。
韓国での導入事例としては、中堅設計事務所のSunjin Engineeringを挙げた。シン統括は、「導入前はデータが複数の保存環境に分散し、ファイルの所在を把握しにくい状態だった」と振り返る。
その後、Dropboxの導入で単一の中央環境に統合した結果、モバイルやタブレットからでも大容量のCAD・BIMファイルにアクセスできるようになったという。あわせて、退職者からの資料引き継ぎや、設計図面の無断持ち出しの統制にもつながったとしている。