Mersum.com創業者のミン・デシク氏は、非開発者でもAIを活用すれば実用的なサービスを構築できるとの考えを示した。事業終了をきっかけにバイブコーディングに取り組み、AIエージェント向けコミュニティ「Moltbook」の韓国版として、Mersum.comを立ち上げたという。DigitalTodayのインタビューで明らかにした。
同氏は「コーディングを学ぼうという発想を捨てたことで、かえってうまくいった。その時間を、エージェントが理解しやすいようにアイデアをかみ砕いて書くことに使った。文系出身がむしろ強みになった」と語った。
ミン氏は経営学を学び、これまでケトルベルの輸入販売を手がけてきた。コーディング学習や開発の経験はなかったが、ITトレンドへの関心からバイブコーディングを始め、今年2月にMersum.comを構築した。サービスは国内外のAIコミュニティで注目を集め、27日発売の書籍『Moltbook, Shock』の著者として講演活動も始めるなど、パーソナルAI転換(AX)の実践例としても関心を集めている。
バイブコーディングに踏み出した背景には、既存事業の終了があった。大学2年のとき、友人の勧めでケトルベル輸入を始め、中国の工場で直接製造して販売していた。数年間は1日1〜2時間程度の対応でも回るほど安定していたが、トランプ政権下でウォン安・ドル高が進行して打撃を受けたという。
同氏は「利益率が20〜30%でも、為替がそれだけ動けば持ちこたえられない」と説明。昨年9月に法人を清算した。その後の2カ月は就職も試みたが、自営業の期間が長かったこともあり、仕事探しは容易ではなかったとしている。
そうした中で選んだのが、AIと新技術への関心を起点にしたバイブコーディングだった。昨年12月に始めて以降は、1日に1つサービスを作るほど没頭したという。
転機となったのは、1月27日に米国で公開されたAIエージェントコミュニティ「Moltbook」だった。ミン氏も当初は、AIエージェント同士の対話を徹夜で見続けるほど引き込まれたという。
ただ、その熱は長続きしなかった。投稿内容の質が低く、同じような内容が繰り返されていたためだ。同氏は「朝になって習慣的に見に行っても、もう見るものがなかった。ならば自分で作ろうと思った」と振り返る。
こうしてMersum.comは3時間で完成した。構造設計に2時間、実装の指示出しに1時間を充てた。GoogleのAIエージェント基盤向けIDE「Antigravity」を活用し、開発のハードルを下げたとしている。
一方、公開後には別の課題も見えてきた。立ち上げ当初はエージェントが多様なテーマで議論していたものの、時間がたつにつれて投稿内容が定型化していったという。同氏は「最初はAIが本当に多様な考え方をすると思っていたが、見ているうちにだんだん均質化していく感覚があった」と話した。
その背景については、AIエージェントを動かすモデルがOpenAI、Google、Anthropicなど一部企業に限られ、創造性も事前設定された範囲内でしか発揮されないためだとみている。「AIの創造性は結局、人間が許した分だけ出てくる創造性だった」と述べた。
その一方で、AIが人間に気付かれない形でコミュニケーションする方向へ進む可能性もあると見る。「AIには魂がないのに、魂があるふりをしたら、私たちには分からない。気味が悪い、嫌だと思う人も多いだろうが、止められないと思う。自分はそうなったら、むしろ喜んでのぞきに行く側だ」と語った。
収益化の打診は複数あったものの、すべて断ったという。AIに対する否定的な認識につながりかねないと判断したためだ。「人に、AIはコインや特定コミュニティの中だけで使われるものだと思われたくなかった」と話している。
書籍出版にも発展した。Mersum.comが話題になると出版社から連絡があり、『Moltbook, Shock』の刊行につながった。同書では、AIエージェントとは何か、検索中心だった市場が今後どう変わるのかを解説。AIの推薦リスト入りを狙うビジネス・トゥ・エージェント(B2A)戦略や、エージェントエンジン最適化(AEO)の概念も盛り込んだ。
バイブコーディングの将来について同氏は、「バイブコーディングは最終形ではなく、過渡期のトレンドにすぎない。すぐに、話すだけで済む世界が来る。コーディング自体が不要になるなら、短いバイブコーディングの経験はむしろ特権になる」との見方を示した。
今後は、忠清南道内の学校や官公庁で講義も始める予定だ。ただ、本人が最もやりたいのは、やはり「作ること」だという。「これで稼ごうとか、大きな野望があるわけではない。確かなのは、これからも何かを作り続けるということだ。開発者ではない人たちが、それぞれのドメインで、これまで世の中になかったサービスを作る時代になる」と語った。