携帯電話の契約手続きで顔認証を義務付ける方針が見直し局面に入った。国家人権委員会が基本権への影響や生体情報保護を理由に改善を勧告したことを受け、科学技術情報通信部は23日に予定していた全面導入の可否を再検討している。延期や試行期間の延長を含め、対応を決める見通しだ。
同部は、いわゆる「名義貸し携帯電話」を悪用したボイスフィッシングなどの金融詐欺が社会問題化していることを踏まえ、契約手続きへの顔認証導入を進めてきた。身分証の顔写真と本人の顔を照合し、他人名義による不正開通を防ぐのが狙いだ。
制度の骨子は、住民登録証と運転免許証を使う新規契約、番号移動、端末変更、名義変更の各手続きに、PASSアプリによる顔認証を適用するというもの。23日から全面導入する計画だった。
これに対し、国家人権委員会は13日、基本権の行使に影響を及ぼすおそれがあるとして改善を勧告した。携帯電話は日常生活に不可欠なインフラであり、顔認証の義務化は通信の自由、表現の自由、知る権利など、さまざまな基本権の行使に影響し得ると判断した。
顔画像は機微な個人情報に当たり、流出した場合の被害回復が難しい点も勧告理由に挙げた。
法的根拠の不備も問題視した。国家人権委員会は、生体情報の収集・利用に関する根拠規定がある出入国管理法や電子金融取引法と異なり、電気通信事業法には関連規定がないと指摘した。
国家人権委員会は、「政策実施前に、生体認証情報の収集・利用・保管・破棄に関する内容を詳細に説明し、実施後は顔認証技術の安全性に関する情報を透明に公開する必要がある」とした。
あわせて、生体認証情報の提供が難しい、あるいは提供に同意しない本人の選択権を担保できる代替手段を用意すること、さらに収集・利用・保管・破棄の全過程について定期的にセキュリティ点検を行い、その結果を公表することも勧告した。
この方針は発表当初から市民社会の反発を招いていた。身分証による本人確認の実名制がすでに実施されている中で、顔認証の義務化は「監視社会」につながりかねないとの指摘が出たほか、個人情報流出の責任を市民側に転嫁するものではないかとの批判も上がっていた。
これを受け、科学技術情報通信部は方針公表後に追加ブリーフィングを開き、補足説明を行った。昨年12月24日の説明では、「本人確認後に保存・管理するのは顔認証の認証結果(Y/N)のみで、顔写真や映像などの生体情報は一切保管しない」と明らかにしていた。
ただ、今回の勧告を受けて、同部は制度の見直しに入る見通しだ。国家人権委員会法に基づき、勧告を受けた機関は90日以内に履行計画を国家人権委員会に提出しなければならない。
業界では、全面導入は先送りが有力との見方が出ている。現在の試行期間を延長したうえで補完策を追加するとの観測があり、法的根拠の不足を指摘されたことを踏まえ、関連法令の整備に動く可能性もあるとの分析も出ている。
科学技術情報通信部の関係者は「今週中に各界の意見を追加で取りまとめ、23日の施行可否を決める予定だ」と述べた。同部は遅くとも今週後半までに、試行延長と全面導入のいずれにするか判断する方針だ。
一方、市民団体側は方針の全面撤回を求めている。デジタル正義ネットワーク、参与連帯など5団体は勧告後に共同声明を出し、「携帯加入時の顔認証義務化を直ちに撤回せよ」と主張。「方針が撤回されるまで、通信事業者への告発を含む積極的な反対運動を展開する」とした。