人工知能(AI)の進化を受け、製造業では競争力の源泉が単なる生産量から、精度や複雑な工程への対応力、変化への適応力へと移りつつある。産業自動化で世界有数の水準にある韓国でも、半導体や電子、自動車といった主力産業の優位性を維持するうえで、AI導入の加速が重要な課題となっている。
Avnet Koreaのキム・ヨンチュン支社長は、韓国の製造現場では機械視覚やゼロショット学習、Embodied AIなどの実装が広がる一方、中小企業では導入費用と人材確保が依然として大きな壁になっていると指摘する。
◆自動化は韓国製造業の戦略課題に
世界の製造業では高速組立ラインの高度化が進むが、韓国ではこれに加え、人口動態の変化が自動化需要を押し上げている。労働者1万人当たりのロボット導入台数を示すロボット密度は、2023年に1012台と世界最高水準だった。国際ロボット連盟(IFR)の「World Robotics 2024」によると、高い自動化水準は生産年齢人口の減少に対応するうえで中核的な手段となっている。
韓国のAIロボット市場も拡大が続く見通しだ。Straits Researchの「South Korea Industrial Robots Market」は、政府の「製造AI転換(M.AX)」政策を追い風に、同市場が2033年までに約18億7465万ドル規模に達すると予測する。Grand View Researchの「South Korea Artificial Intelligence in Manufacturing Market」でも、韓国の製造業向けAI市場は2025〜2030年に年平均成長率(CAGR)52%で拡大すると見込む。製造現場へのAI実装が急速に進んでいることを示す数字といえる。
◆機械視覚が支える超精密製造
電子機器や半導体の工場では、品質検査の精度が収益性を大きく左右する。AIベースの機械視覚システムは、こうした超精密製造を支える中核技術になりつつある。次世代の機械視覚では、3D認識、ポイントクラウド処理、大規模ビジョンモデルの組み合わせによって性能向上が進んでいる。
中でもイメージセンサーの選定はシステム性能を大きく左右する。ただし、すべての用途に適した単一の解は存在しない。信頼性の高いAI実装には、現場に応じたハードウェアの最適化が欠かせない。高精度のRGB-Dカメラはミリ単位の位置決めを可能にし、動的物体認識アルゴリズムは無秩序に積まれた対象物の処理にも対応する。大規模ビジョンモデルは限られたサンプルでも99.9%超の精度を実現し、品質検査のデジタル化を後押ししている。
◆自律最適化へ進む生産ライン
ビジョンシステムがロボットの「目」を担うなら、AI意思決定エンジンは「脳」に当たる。多様な車種を1つのラインで生産する自動車工場の混流生産では、高度なクローズドループ制御が不可欠だ。ここで注目されるのが、大規模産業モデルを活用したゼロショット学習(ZSL)である。
ゼロショット学習を導入すれば、事前登録していない対象物にも対応しやすくなり、新しい部品を扱う場合でも大規模な再プログラミングなしで素早く適応できる。生産ラインの切り替え時間を大幅に短縮できる点は、完全自動化工場「Lights-out Factory」の実現に向けた大きな強みとなる。
◆Embodied AIが広げる適用領域
新たに台頭するEmbodied AIは、従来の産業用ロボットを構造化された環境への依存から徐々に解き放ちつつある。マルチモーダル認識を活用する「目・脳・手」の統合プラットフォームによって、ロボットは視覚情報を基に周囲の環境を理解し、状況に応じた動作が可能になる。
こうしたクローズドループ型のモデルは、製造現場の外にも広がっている。成長が続く韓国のeコマース物流分野では、3Dビジョンがロボットの認識精度を高め、多様な形状やサイズの梱包材の仕分けを効率化している。
スマートソリューション分野では、2030年までに少なくとも240種類の新技術が登場するとの見方もある。こうした流れの中で、独自のエコシステムやエンドツーエンドのIoTサービス群を通じ、急成長する韓国市場に適したソリューションを提供する重要性は一段と高まっている。物流でも超精密製造でも、複雑なAI活用を支える構成要素と統合ノウハウの確保が鍵を握る。
◆中小企業には費用と人材の壁
もっとも、韓国は先行する一方で、AI導入拡大に伴う固有の課題も抱える。中小企業中央会(KBIZ)の2024年調査によると、韓国の製造業がロボット導入をためらう主な理由は、初期費用の負担が44.2%、専門人材の不足が20.5%だった。Straits ResearchはKBIZ調査を引用し、AI導入の恩恵が大企業に偏れば、大企業と中小企業の生産性格差が一段と広がる可能性があると分析している。
課題解消には資金面の支援だけでなく、導入しやすく統合しやすいソリューションの整備が欠かせない。プラットフォームの簡素化や専門ハードウェアの安定供給は、厳しい製造環境でも信頼性の高いAIシステムを構築する基盤になる。