Samsung ElectronicsはCES 2026で、「日常に寄り添うAI」を中核メッセージに据えた。DX部門長は5日(現地時間)、ラスベガスで開いた記者懇談会で、年間4億台規模の機器を接続し、「真のAIコンパニオン」を目指すと表明した。家電分野では「Home AI Companion」を掲げ、家事負担の軽減にとどまらず、睡眠や健康管理まで担う構想を示した。
AIはすでに生活に浸透しつつある。OpenAIによると、ChatGPTの週間アクティブユーザーは9億人を超えた。韓国では月間アクティブユーザー(MAU)が2162万人に達し、スマートフォン利用者の約半数がAIチャットボットを利用している計算になる。McKinseyの調査では、世界の企業の88%がAIを導入した。
こうした流れの中で、Samsung Electronicsが強調する「コンパニオン」という概念を成立させるには何が必要か。その手掛かりとして本文が挙げるのが、AmazonのCTO、ワーナー・ボーゲルスが2025年11月に公表した2026年の技術見通しだ。ボーゲルスは、技術と人との関係が根本から変わりつつあると分析している。
同氏は、機器との関わりが単なる操作中心の関係から、物理的なAIとの関係構築へ移行していると説明した。その背景には孤独の拡大があるという。ボーゲルスによれば、世界では6人に1人が孤独を経験しており、世界保健機関(WHO)はこれを公衆衛生上の危機として位置付けた。60歳以上では43%が孤独を訴え、社会的孤立は死亡リスクを最大32%高めるとしている。
ボーゲルスは、「10年前であれば、ロボットと意味のある情緒的な関係を築くという発想はSFに近かった。しかし、高齢化の進展、AI能力の向上、世界的な孤独の拡大が、コンパニオン革命の条件を整えた」と述べた。
臨床面での根拠も示されている。カナダの長期療養施設で実施されたParo(パロ)ロボットの研究では、認知症患者の95%が肯定的な相互作用を示した。興奮や抑うつ、孤独感が軽減し、投薬量や睡眠パターンも改善したという。
人がなぜ機械に情緒的な反応を示すのかについて、ボーゲルスは「人間は、自律的に動く物体に意図や生命を投影するよう生物学的に設計されている」と説明した。MITの研究者ケイト・ダーリングの研究を引き合いに、人はロボットを単なる機器ではなく、動物のように扱う傾向があるとした。Roomba(ルンバ)の利用者の50〜80%が掃除機に名前を付ける例も挙げている。
◆DX部門長「4億台規模の機器で真のAIコンパニオンに」
Samsung Electronicsが「Home AI Companion」で睡眠や健康管理を前面に出した背景には、ボーゲルスが示したこうした論点との重なりがある。Samsung Electronicsがロボットとメディカルテクノロジーを4つの新たな成長分野に位置付けている点も、ボーゲルスのいう「高齢化、AIの進化、孤独の拡大が生むコンパニオン革命」の条件と軌を一にする。
もっとも、Samsung Electronicsのアプローチは、ボーゲルスが論じたコンパニオンロボットそのものとは異なる。新たなロボットを投入するのではなく、すでに家庭内にある家電、テレビ、モバイル端末をつなぎ、「統合AI体験」を構築する戦略だ。DX部門長は「モバイルはAIハブへ進化し、テレビにはVision AIを適用して、パーソナライズされたAIスクリーン体験を提供する」と説明した。
この取り組みがロボットではなく機器エコシステムを軸にしていても、成功の条件は変わらないと本文は指摘する。ボーゲルスは、AIコンパニオンの成否は「ケアの中心に人間を置いたまま、支援能力を拡張すること」にあると強調した。ロボットであれ家電であれ、技術が人のケアを置き換えるのではなく、人を支える協業モデルを築く必要があるという意味だ。
Samsung Electronicsも、この人間中心の考え方を設計段階から取り入れている。マウロ・ポルチーニ最高デザイン責任者(CDO)は7日、ラスベガスで開かれたSamsung Tech Forumで、「デザイン全般に『形と機能は意味に従う(Form and function follow meaning)』という原則を適用している」と説明。「製品中心ではなく、体験を設計する方向へ転換する」と明らかにした。
ポルチーニCDOは、人間中心のアプローチについて「未来に対する当然の責任であるだけでなく、戦略面、経済面でも不可欠な要素だ」と強調した。デザインを通じて技術と人との間に感情やアイデンティティが根付いてこそ、人間的な未来を築けるという考えを示した。
◆「ケアの中心に人間を置く」ことが前提に
一方で、人間中心のAI路線が無条件に肯定されるわけではない。ボーゲルスCTOは、信頼の悪用というリスクにも言及した。同氏は「人々がコンパニオンに深い信頼を寄せるほど、企業はその信頼を悪用して利用者の意思決定に影響を与えたり、信念形成を誘導したりしないよう、強固な統制の仕組みを整える必要がある」と指摘した。その上で、「責任ある開発が行われるとき、これは技術の最良の姿を示す」と述べた。
年間4億台規模の機器を顧客の日常全般につなぐとするSamsung Electronicsにとって、AI倫理の重要性が一段と高まる理由でもある。Samsung Electronicsは独自のAI倫理原則を定め、AI Safety Frameworkも整備している。AIの開発と活用における中核原則として、公正性、透明性、責任を掲げた。
不公正なバイアスの防止や個人情報保護、AI倫理協議会の運営を通じて、「人間中心の機器」の実現を目指すとしている。オンデバイスAIの拡大によって安全性の重要性が増すとみて、データ・モデルガバナンスとAI Safetyの評価、レッドチーム運用を軸とする「AI Safety Framework」を構築した。